私の人形は良い人形ー第8夜
今度の日曜日は空いてるか?と携帯電話のショートメールにSさんから連絡が入っていたのは、季節も芒種に入って間もない頃でした。
私はSさんからのメールの内容を確認した後に、着信履歴から電話がかかっていた事に気づいて、Sさんに電話をかけました。
私がSさんに謝るよりも先に、
『日曜日にむっちゃんが引っ越しすっからさ、お前何もなかったら手伝えない?』
と言う事で、私は何も用事がなかったので、了解大丈夫ですと言って電話を切りました。
むっちゃんは20歳前の大学生でいつも仕事で大変お世話になっているSさんの1人娘、大した用事でなければ断って加勢するような仲でした。
日曜日に教えていただいた、引っ越し先の住所に私がトラックに積んだ荷物を運搬してくるSさん親子を待つ段取りでした。
予定より1時間早く到着した私は暫くは車中で待機していましたが待つより、引っ越し先のアパートに興味深々でしたし当時は風水も勉強していましたし間取りに関心がありました。
間取りはアパートとというより、一軒家を間仕切り二世帯住宅というような住居で2階建てと言う事で、Sさん親子が来るまで外から二階を眺めたりしていました。
するとあれっ、鍵が空いてる…アパート玄関のドアが2センチほど開いていたのに気づいた私は、隙間から覗いてみました。
玄関入って直ぐにLDKで玄関横にキッチン流しが設置していて、そこまで確認した私は隙間から色々と眺めた後になるほどと納得するとドアを閉めようとしました。
その時でしたドアを閉めたと同時にトントンと言う階段から降りてくる足音のような音に気付きました。
…。
久々ですが何となく訳あり感をとらえていた私は、ドアを開けて中を凝視しました。
キッチンから奥に意識を向けると、再びトントンという足音が聞こえてきました。その足音は階段を上がったり下がったりしていたように思いますし、小さな子供が階段で遊んでいるように結構目立ちます。
その音が突然バッタリ聞こえなくなったかと思うと、Sさん親子が到着しました。それともう1人むっちゃんの従兄弟の子も到着して4人でワイワイ賑やかに荷物の運搬をすませました。従兄弟の男の子は小さい時にむっちゃんからイジられていたそうで、
『お前少しは重たいの持てよ、怪力だったくせに❗️』
『私、箸より重たいの持てない』など、雰囲気は賑やかでした。最初はあの足音を怪訝に思ったりもしましたが、ポジティブなむっちゃんを見ていると場の明るさと空気感の良さにすっかり忘れてしまいました。
『お待たせ、ほか弁こうてきたで』というむっちゃんの声で休憩に入ります。
ここで、むっちゃんが天井を指さしながら『パパ、あの天井に貼り付けてる御札とって』とSさんにいいます。Sさんも何であんなところに御札がと気がつきました。
その御札は1階居間の天井に貼ってあり、2階は別段何も変わった様子はありませんでした。
脚立を設置して御札を剥がしたSさんはとくに気にする事なく淡々としたものでしたが、何故か従兄弟の子は黙って見ていましたし、私もあの足音を思い出して黙って見ていました。ただ、とくにあの足音を最後に何も感じる事も無かったので大丈夫だろうと思いました。
一階の荷物運搬が終わり、二階に荷物を休憩後にはじめました。
その際に閉まっていた押入れの襖から異様な雰囲気を感じた私は、躊躇なく開けました。
アンティークドール一体が目に入りました。暫く眺めてみるものの静かです。
『この押入れ…何か変と思いませんか?天井に御札とかもちょっと気になるんです』
いつのまにか私の背後にいた従兄弟の子が怪訝に立って言うので、私はうーんまあ暫く様子を見ないとわからないなと言って、
事故物件や曰く付きの家屋の場合、押入れは地縛霊、浮遊霊、動物霊の棲家になりやすいので、何か異変や不穏を感じる場合ケース的にも人形などの人の形をした物に宿る、
雛人形や、精巧に作成されている人の依代の意味を持つ人形などはとくにしまいっぱなしにしていると、
押入れで日中は静かにして、夜や日中人がいない時に家屋内を動いたりするから夜押入れ前に布団ひいて寝てみるとよいよと、その時は冗談で従兄弟のMくんにいいました。
嫌ですと真面目に従兄弟の子が言うので、私は冗談だと笑いながら話を続けました。
後にSさんから聞いた話で、従兄弟の子は霊感が強く、私の身体から金色のオーラのようなものが時折みえたりしていたという。
その時は暫く様子を見てから、お話しするとよいかもしれんね、と従兄弟の子と不思議談話で花が咲いたが、
無事に引っ越しが終わり、
そして
案の定というか、それからむっちゃんに異変が起きたのは2ヶ月後のお盆の時でした。
つづく
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