見出し画像

カフェをとりまく人々 #3 ヒゲ店長とワインショップ

2006〜2022年、私はカフェオーナー兼、料理人だった。

そこで出会った、興味深く愛すべき人々のことを、少しずつ思い出しながら綴っていこうと思う。

#3 ヒゲ店長とワインショップ

2006年5月、「ヒゲ店長」こと孝一郎さんと出会った。
島根県江津市にあるワインショップ&バー「エスポアたびら」オーナーである。
フランスの地方ワインが多数置いてあり、どれも大手メーカーではなく
小さな生産者の造ったワイン、まさに「生産者の顔が見える」ワインである。

当時、フランスでの料理研修から帰ってまだ2年の私は、自分が滞在して働いた地域のワインがあることがとても嬉しく、
孝一郎さんに「こういうカフェを開くんです」と、仕入れのお願いをした。
雇用したスタッフとともにワインの勉強会をしたい、と言うととても親切に対応してくれた。ヒゲの紳士。
孝一郎さんは当時30代半ば、地域の酒屋さんの跡継ぎで、ソムリエである。
いつもパリッとした白いワイシャツに黒のタブリエ(腰から足首までのエプロン)姿。
あとで聞いた話によると、「メタルロックが好きだから黒か白しか着ない」
とかなんとか・・・。え、そういう理由ですか。

とにかく、孝一郎さんの協力を得て、私はとても心強かった。
フランスの、品質が良い手頃な価格のワインが提供できる。
開業当時、ディナーの営業とアルコールの売り上げも、経営にとって重要な要素だった。
しかし、経験の少ない私にとって、プレオープンで経験したディナーの営業はとても難しかった。仕込みの多さ、同時に入るオーダー、料理人は私一人、接客は慣れないスタッフ。しばらくメニューを絞って、ひっそり営業していたと記憶している。

2007年8月、ワインと音楽のイベントを開くことにした。
孝一郎さんにワインを数種類グラスで販売してもらい、説明販売してもらった。
料理も一皿500円くらいのものを数種類用意し、お店の駐車場にソファーやテーブルを出して、音楽ライブを行った。
当時のノートに「ワインは100杯以上売れた」と書いてある。大成功じゃないか。

それからも、伸び悩むディナーの営業を助けてくれたのは、孝一郎さんだった。
2011年から始めた月に一回の「週末ワインバー」は、金土の二日間、
孝一郎さんが車で30分かけて、カフェ・ミシェルまでワインと大量の荷物を抱えてやってくる。カウンターに立つ孝一郎さんが、8種類ほどのワインをグラスで販売してくれるのだ。
私は季節に合った特別メニューを用意し、提供した。
普段は売りにくい食材(牡蠣やレバーパテなど)も、ワインバーのお客様は注文してくださるので、仕込みにも気合いが入った。
私はフランスの家庭料理や地方料理が好きで、それらは孝一郎さんの仕入れるワインととても相性が良かったと思う。
孝一郎さんのワインショップが好きだという方たちが、毎月のように来てくださって、ワインバーの日は予約がたくさん入った。

当時の和飲通信とワインバーメニュー
鶏肉ソテー、マスタードクリームソース
アンチョビやケイパー入り、トマトパスタ
ある月のワインバーメニュー(春と秋)



2013年、私の結婚式に、素晴らしいワインをいただいた。まさかの、マグナムボトル(1500ml)。
2015年半ば、私の妊娠出産でディナー営業はやめることに。
2022年末、私がカフェを引退するとき、後継者へのプレゼントは「ワインにしよう」と思った。
Château de l'Engarran、姉妹で営むワイン醸造所。
私と後継者のシスターフッドにぴったりじゃないかな。

孝一郎さんがラッピングの資格も持つ器用な手先で、美しくラッピングしてくれた。

ワインショップ「エスポアたびら」は10年ほど前からワインバーの客席を設け、月1回のワインバーを開いている。
生産者との交流も続けていて、何年にもわたってワインの後ろにある苦労や物語を共有している孝一郎さん。販売するワインも、実直で、誠実そのもの。

江津駅からも近いエスポアたびら
ワインの全国配送も可能
内装も美しい

いいなと思ったら応援しよう!