悲劇的な不条理と幸福と
Cover Photo by Zoltan Tasi
これまでわりと真面目な戦略記事を中心に書いてきたのですが、たまにはゆるめのものを書きたいと思います。まあつまりポエムとかエッセイとかそういう類のやつ。
お題はダウンスイング。ティルト。不条理。
Absurdity
アルベール・カミュは著書の『シーシュポスの神話』で不条理の悲劇性と、それに対する幸福について語りました。
この作品、タイトルくらいは聞いたことがある方も多いと思うのですが、カミュが彼の哲学的命題である不条理について語った随筆です。当のシーシュポスは最終章で引き合いに出されるギリシャ神話の登場人物です。
シーシュポスは、神様からの罰により、毎日大きな岩を丘の上まで運ばなくてはなりません。そして到達するや否や、その岩は来た道を転げ落ちてしまいます。彼は何度も、何度も、永遠にこの労働を繰り返します。
まさに不条理。ちなみになんで彼がこんな罰を受けたかというと、人類を死から解放したからです。
まあつまり何が言いたいかというと、ダウンスイングはつらい。これ。平和な日常の中でダウンスイングよりつらいことっていくつありますか?なんか人生について考えたりしません?ポーカーほんと不条理。絶え間なく合理性を追求した先に目を覆いたくなるような結果が待ち受けているのです。いったい何のためにこんなことを繰り返しているのでしょう。これを不条理と言わずしてなんと言う。幸福とは。
こんなことが続けば、人の移ろいやすい心など乱れて当然です。ダウンスイングとティルトは切り離せない関係です。少なくとも私にとってはそうです。
しかしここで、カミュが提示した言葉を思い出します。
彼は不条理の存在は、受け入れることのできるものである、と論じています。不条理を認識せよ、と。
であれば、とにかくまずは認識せねばなりますまい。そこで私はダウンスイングとは何なのかということを分解して考えてみます。分散の数学的な難しい話ではないです。数字を超えた何かを探しているんだよ私は。
ダウンスイングってなんだろう。大雑把に言うとこんな感じ。これらが高密度で突然、動物的な何かの形で全速力で体当たりしてくるイメージです。
ボードが当たらない
ドローが引けない
オールインに負け続ける
クーラーをもらう
バリューベットに降りられる
ブラフはキャッチされる
ブラフキャッチに失敗する
強いアクションに降ろされ続ける
BRはぼろぼろになるし心は擦り減ります。ポーカーとは人類の最大幸福を削るアンチ功利主義ゲームなのです。
Let's Cook
さて。こういうものを一つずつ検証して、それらが続いたときに、自分にどう作用するのか考えます。もちろんそれぞれの事例で何度続いたらティルトするか、は異なりますが、ご自分にあてはめてだいたいで想像してください。こういうのは雰囲気だよ。
ボードが当たらない
=>当たらないあまりプリフロがルースになる。
ドローが引けない
=>コールできる場面で降りてしまったり、無駄にレイズしてしまうようになる。
オールインに負け続ける
=>NLHレベルなら特になし。HM3で目に見えるだけでわりと平気。裏を返すとキャッシュアウト反映修正くるまでティルトしてた。
クーラーを複数回もらう
=>バリューを狙いすぎてオーバープレーしてしまう。とくにオーバーポケット。
バリューベットに降りられる
=>あまりにも降りられるのでオーバーベットの頻度が下がって、バリューとブラフの比が壊れる。
ブラフはキャッチされる
=>単純に大きなブラフを打てなくなる。
ブラフキャッチに失敗する
=>降りがちになる。そもそもコーラー化しているパターンもある。
強いアクションに降ろされ続ける
=>普段なら高頻度で降りる場面で、コールに寄せてしてしまう。
こんな感じです。いくつかは関連しており、併せて起きたときにプレーが乱れます。たとえばバリューは降りられ続けるのに、ブラフはしっかりキャッチされるといったパターンですね。これは良くある。
EV損失の大きいパターンを挙げてみたいと思います。
クーラーを重ねて引き過ぎて、ポットを取りたいがあまり、オーバーポケットでオーバープレーをしてしまう。
=>オーバーブラフしてしまう方もいると思います。私の場合は薄すぎてもはや存在しないバリューを取りに行ってしまうパターンの方が多いです。
ある日、プール全体のベット頻度がとても高く感じられて、疑いのあまり微妙なハンドでコールダウンしてしまう。
=>たまたまその日、相手にハンドが良く入ってただけだったりするようです。
バリューベットに降りられたり、相手の強いレンジにぶつかり続けたために、オーバーベットを無意識に控えるようになり、同時に大きいブラフも混ぜられなくなる。
=>ポラライズした高いEVを得られるスポットを作れていません。このパターンはなかなか気づけないことが悲惨。
こういった重大なミスをしやすいパターンを具体的に把握しておくと、ティルトしたときにも我に返りやすくなるのではないかと思います。ティルトに気づいたらどうすればよいのかって?そっとスターズを閉じます。
ダウンスイングとティルトでプレーを壊さないためには、こういったチェックポイントをあらかじめ用意して、プレーを部分毎に確認するのは良さそうです。
また、テーブル外でこんなことをしてしまう方も多いのではないでしょうか。
収支が気になって仕方ないので、やたらとHMを確認してしまう。
=>10秒に一回確認してもBRは増えません。ていうかむしろ余計ティルトしてもっと減る。
負けているときに上のステークスに突っ込んでしまう。
=>もってのほかです!ダメゼッタイ!スターズ破産の原因の半分以上はこれだと思っています。
Il faut imaginer Sisyphe heureux
ダウンスイングは制御不能です。しかしダウンスイングとうまくやっていくことは、ポーカーで勝つ、というか楽しくポーカーを続けるためにはとても重要だと思います。
ポーカーは思い通りにならないことだらけです。だからせめて、手の届く範囲のことは80点、いやせめて60点は取りたい…というのが私のささやかな願いです。
ポーカーはつらい。けど楽しい。つらい。でも楽しい。ほんとなんでこんな残酷な不条理ゲームにここまでのめりこんでいるのでしょう。
カミュは、不条理を完全に認識することによって、3つの重要な概念に至ったそうです。
反抗。自由。情熱。
反抗することによって不条理は生まれ、不条理そのものが情熱に変わり、不条理の認識により”有意義なもの”から解放されて自由になる。
つまりですね、上で色々とダウンスイングについて考えたわけですが、その個々よりも、それら全て、ただそこにあるだけなんだと認識して、前向きにやっていこうと思えるかどうかが大切なのかもしれません。普通に解釈が違うかもしれないけどまあ良いさ。たくさん考えたら、そこから先は細かいことは良いんだよ。
残酷とかいう形容も私の感覚でしかなくて、勝手に意味を考えてしまうのが人間ですけれど、そもそも意味なんてないよね。葉っぱが落ちたって君は死なないよ。
だから、私は明日もオールインします。明後日も。来週も、たぶん来年もするでしょう。
今日も楽しかったですか?
って自分に尋ねてから寝ます。
おしまい。
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