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[英詩]ラップの英語

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

※英詩のマガジンの副配信です。

本マガジンで rapper の「押韻主義」を取上げたことがあります。

アイルランドの詩人やボブ・ディランや現代の rapper たちがしばしば使っている母音韻を考えるのが目的でした。

今回はラッパーの英語そのものを考えてみます。

Meiso 氏の記事「英語でラップ!」(「English Journal」2019年10月号) を参考にします。

用語の定義

自身 MC (Master of Ceremony, 進行役、ラッパー、元は DJ が曲の間にマイクで「しゃべり」を入れていたが、後に専任として登場したラップ担当者のこと)である Meiso 氏の用語の定義は、ラッパーが韻などをどう捉えているかを考える参考になる。以下、氏の定義は〈〉に入れ、コメントを付す。

◼️ Rhyme

〈韻のこと。または「ラップする」という意味。(中略) 同じ音節を持つ言葉を文末に配置することでリズムを作るのが基本形。〉

英詩でいう脚韻 (end rime) に相当。母音韻という意識は特にない。また、音節の強勢の有無も問題にしていない。


◼️ Lyrics

〈ラップの歌詞。ラッパーの命であり最重要要素。その人の経験、学び、考えから、心の在り方すべてがリリックに反映される。〉

lyrics と複数形にすると歌の歌詞の意味になる。単数の lyric は叙情詩で、詩の歴史では叙事詩 epic と対照される。


◼️ Flow

〈ビートに乗せたラッパーの声の調子。メロディーやリズム、抑揚、発声声質を含む。〉

ラップが声の文化であることを如実に示す要素。例えば英詩の朗読と比較すると、メロディーや声質などは、朗読では重要な要素とふつうは意識されないので、この定義は特徴的だ。ただし、ビート詩人などのパフォーマンスを思い浮かべると、両者にほとんど違いはない。


◼️ Freestyle

〈あらかじめ書いておいたリリックや覚えているライムではなく、その場で即興でラップをすること。MCバトルは攻撃的なイメージが強いが、それはフリースタイルの一部でしかない。互いからインスピレーションを受けて演奏に集中するジャズセッション風、自分と向き合う独白などさまざまな楽しみ方がある。〉

その場で湧きおこるインスピレーションをくみとる即興的作詞は、詩の原点を想起させる。


◼️ Wack

〈wacky (バカげた、滑稽な) や wacko (狂っている) から派生したスラング。もともとは突飛な人 (He is a real wack.) を指す言葉として使われていたが、今では「ダサい」「冴えない」という意味で使用される。〉

wack の語義として「ダサい」「冴えない」「はやらない」を載せている辞書に『ジーニアス英和大辞典』がある。


◼️ Dope

〈元々麻薬を意味するスラングで、80年代からヒップホップ好きを中心に「ブッ飛んでる」「ヤバい」「かっこいい」など肯定的に使われるようになった言葉。wack の対義語。ラップはいかに自分が dope かを見せつける美学。ただしバトルの後はリスペクトを忘れずに。〉

dope の形容詞としての語義「すばらしい」を載せているのは『ジーニアス英和大辞典』『ランダムハウス英和大辞典』『リーダーズ英和辞典』。


◼️ Beat

〈ヒップホップ音楽のカラオケ。ドラムが強調されループになっている音楽で Instrumental (インスト) とも呼ばれる。ビートに合わせてラップやスクラッチ (レコードをこすって出すノイズ) を乗せたり、グラフィティを描いたり、ダンスをする。ヒップホップの心臓。すべてはビートから始まる。〉

大まかには英詩の強勢拍律に相当する。強勢拍によるリズム。強勢アクセントと次の強勢アクセントとの時間的間隔が等しくなるように刻まれるリズム。

Meiso 氏は多くの lyrics 例を挙げている。本マガジンの読者にも参考になるような例を少し挙げてみよう。韻を踏んでいるところを太字にする。


KRS-One, 'Original Lyrics'

I am the manifestation of study,
NOT the manifestation of money.
Therefore, I advance through thought,
NOT what's manufactured and bought.

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