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ディラン研究書解題(2)

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

ディラン研究書を少しづつ紹介しています。今回はディラン百科的な書を二冊(いづれもグレイ著)と個別の歌を詳説した三冊の、計五冊。解題(1) では七冊紹介しました(Ricks, Herdman, Emerson, Shelton, Sounes, Wilentz, Yaffe)。

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目次
ディラン百科(Michael Gray x 2)
個別の歌の詳説(Clinton Heylin x 2, Philippe Margotin and Jean-Michel Guesdon)

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ディラン百科

Michael Gray, 'Song and Dance Man III: The Art of Bob Dylan' (London: Cassell, 2000) [Revised version of 'Song & Dance Man: The Art of Bob Dylan', 1972]

ディランに関する最重要の研究書のひとつ。この版で918ページある。最初の方の章は以前の版から変更されていないらしいが、本書では、ディランのより新しい作品群(1980年代、90年代)を扱う他に、戦前のブルーズに関する長大な章(pp. 268-379)が加わっている。しかし、刊行年の2000年にはまだディラン自伝第1巻('Chronicles: Volume One', 2004)が出ていない(巻末にロバート・ジョンスンに関するディランの重要な発言が含まれる)。それをふまえているのは、むしろグレイのより新しい著作 'Bob Dylan Encyclopedia' (2008) の方だろう(次項)。

逆に言えば、ディラン自伝が出る前に、ここまでブルーズとディランについて詳説しているのは慧眼という他ない。グレイの特徴は、何かひとつ取上げると、とことんそれを掘下げることで、それがどんな対象であれ、ディランを論じるのに重要であると考えれば、追究の手をゆるめない。それは研究者的ともいえるし、ある意味では「鈴木カツ」(日本の音楽評論家)的ともいえる。つまり、文学的にエドガー・アラン・ポーの行内韻を論じたかと思えば、また、サン・ハウスの知られざるレコードの片面とか、誰も知らないロカビリーの演奏とかを話題にする。しかし、考えてみれば、世界中でディランを追いかけている人びとは多かれ少なかれグレイ的な側面がある。ディランについてはとことん追究したくなるのだ。

もうひとつ、類書にない特徴は、アルバム 'Under the Red Sky' (1990) におけるナーサリー・ライム(マザーグース)の影響について1章を割いて論じていることだ。一般には不人気の、賛否の分かれるアルバムであっても、重要だと思えば、約70ページも書く。ここで改めて言うまでもないが、英語文化の屋台骨を成す伝統は、ナーサリー・ライム、シェークスピア、英訳聖書の三つである。これに、口承伝統のバラッドとブルーズを加え、さらに古今東西の文学の影響を混ぜ合わせたものがディランに影響を与えたものの一部であると考えられる。それでもまだ一部であって、他にアメリカ音楽の特にルーツ音楽なども深く掘らないと、ディランに影響を与えたものの全体像は見えてこない。

Michael Gray, 'Bob Dylan Encyclopedia' (2008)

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