[頭韻] Mickey Mouseがバズ・ワードになったわけ
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バズ・ワードといえば、きっと Donald Duck もそうだったろう。
こういうことのわけは頭韻を知っていれば、ある程度、確信をもって述べられる。
「頭韻」という言葉はラッパーたちも使うのだけど、日本語の場合と英語の場合とではテクニカルな面で違いがある。ラッパーたちはおそらく「頭の音」が同じという意味で使っていると思う。(違っていたら指摘してください。)
「フリースタイルダンジョン」というラッパー真剣勝負の番組がある(テレビ朝日、火曜深夜1時26分〜1時56分)。その中でのラップそれ自体も、もちろんすごく面白いのだけど、勝負後のラッパーたちのコメントも劣らず面白い。この中で「頭韻」という言葉が時々出てくる。もちろん、「韻」「(韻を)ふむ」「ライム」「ライムをふむ」などの方がはるかによく使われるけれど。そこでの使われ方は上記のような理解にみえる。
たとえば、次のようなことがある。
こういうことがあるのだ。
頭韻文化は英語においては脚韻(いわゆる「韻」「ライム」)よりもはるかに古く、歴史も伝統もある。しかし、往々にして、きちんと理解されていない。
まあ、理解しても、それがどうした、と言われるだけかもしれないけれど、分かると楽しいのも事実だ。
ネット上にある情報は、ネットにある情報を基にしてつくり上げられているものが多く、どこまで行っても堂々めぐりになる感じがあるけれども、頭韻に対する研究は本当は長い歴史があり、相当に堅い基盤がある。
韻には他に母音韻や子音韻などもあり、耳のよい詩人がつくった詩を読むと、複数の層で音が交響し、眩暈をおぼえるほどだ。
頭韻について英詩での基本をサクッと知りたい人向けに簡単に書いてみます。自分で調べたい人は、日本語図書だと「英詩 韻律」、英語図書だと 'poetry prosody' などのキーワードで検索すれば、いろいろ出てきます。プリンストンから出ている詩学百科などでももちろん分かります。
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1. 強勢のある最初の音節の最初の音に注目する
これがすべての始まりです。たとえば、Mickey Mouse だと、それぞれの語の最初の強勢音節は Mick- と Mouse です。それらの最初の音は同じ /m/ という子音です。
同じように Donald Duck をみると、最初の強勢音節は Don- と Duck です。それらの最初の音は同じ /d/ という子音です。
このような場合、Mickey Mouse だと m の頭韻、Donald Duck だと d の頭韻をふんでいることになります。
2. 強勢のない音節は頭韻に関係ない
これに対し、強勢のない音節は、頭韻に関しては関係ないのです。たとえば、below the belt の場合、below と belt とは一見おなじ音で始まる頭韻のように見えますが、below の最初の強勢音節は -low です。その最初の音は /l/ という子音です。/b/ ではないのです。
一方、above the belt の方は、最初の強勢音節が -bove なので、その最初の音が /b/ の子音で、めでたく belt の最初の強勢音節 belt の最初の音 /b/ と一致し、頭韻が成立します。
ただ、below the belt の方は「ベルトの下」を打つボクシングの反則技のことで、「卑怯」を意味する、一般に使われる表現であるのに対し、above the belt 「ベルトの上」といったところで、面白くもなんともない普通の意味なので、わざわざそういうことを言ってもあまり意味がありません。
3. 違う母音どうしは頭韻をなす
今まで見てきた例は子音の頭韻でしたが、母音の頭韻もあります。ただ、その場合、違う母音どうしが頭韻をなすというルールがあります。例えば、apple と odour や east と endless などは母音の頭韻をなします。
4. まとめ
Mickey Mouse
Donald Duck
below the belt
above the belt
apple と odour
east と endless
5. 参考文献
頭韻を使った言葉の文化を「頭韻文化」と呼ぶことにすれば、それについて多くの実例を集めた本があります。
窪薗晴夫、溝越彰『英語の発音と英詩の韻律』(英潮社、1991)
この本の第2章「音節」の中の 3.3 「頭韻文化」がくわしく頭韻を使った例を検討しています。
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