【書評】文藝春秋2019年10月号
「文藝春秋」2019年10月号
総合誌として読みどころが沢山ある。それに文章の質が概して高い。
この2つを満たしてくれるものはそう多くない。
いわゆる論壇誌は切り口やアプローチやデータが興味深いことはあっても、概してスコープがせまく、文章も玉石混淆で、作家と名乗るひとの文章でも校正済みか疑わしいものも載る。
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本号の興味深い記事のうち、少しだけ取上げる。
藤原正彦「知られざる国父」
筆者の隣人、穂積真六郎(ほづみ しんろくろう)氏のことを書いた珠玉の文章。
日清戦争の下関条約で独立するまで、朱子学(12世紀の朱子が大成した儒教の学説)を中核的思想とする李氏朝鮮が、小中華と自称し(大中華は China)、周辺諸国に対し居丈高に振舞っていたこと。
穂積真六郎が朝鮮総督府で殖産局長(昭和7年〜16年)として、朝鮮の工業生産を6倍にしたこと。彼のモットーが日本人のための朝鮮でなく朝鮮人のための朝鮮だったこと。日本の国益より朝鮮の国益を余りに優先したので、昭和16年に辞めさせられたこと。
金 完燮(きん かんしょう)の『親日派のための弁明2』で〈朝鮮人を心から愛し最後は朝鮮に骨を埋めようとしていた。……穂積真六郎に真の朝鮮の国父らしき姿を発見した〉とあること。この本は韓国ではすぐに発禁同然となり、著者は逮捕されたこと。
これらのことが美しい筆致で綴られている。
台湾に八田與一あり。
韓国に穂積真六郎あり。
成毛眞〈「Suica」が最強のキャッシュレス決済だ〉
〈「なんちゃらペイ」を使う必要はない〉
と筆者は断言する。〈理由はただ一つ。支払いが完了するまでに手間と時間がかかりすぎる〉から。
日本マイクロソフトの社長だった筆者は技術に明るく、「なんちゃらペイ」による「QRコード狂騒曲」が理解不能だという。
〈世界的に見ればQRコード決済は中国で普及しているだけで、「未来の決済手段」でもなんでもありません〉
と断じる。筆者の見立てではQRコード決済は数年のうちに大半が淘汰されていくという。
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〈QRコード決済事業者にとって、生き残りのカギは、フェリカ形式の電子マネーとの提携〉
であると筆者は主張する。フェリカはICカードを端末にタッチすることで瞬時に情報をやりとりする無線通信システムのこと。フェリカを採用するのは、Suica, PASMO, iD, クイックペイ。
筆者は Suica を iPhone のアプリ「アップルペイ」に登録しているという。QRコードと違い、アプリを起動する必要がない。「スリープ」状態でも端末をタッチするだけで支払いができる。
フェリカは「デファクト・スタンダード」を握る可能性を持つ技術だったにもかかわらず、開発したソニーは普及の努力をしていないように見える。
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筆者と同様に、私も「モバイル Suica」を利用しているので、その高速性や優秀性はよく知っており、論旨には同意する。問題は、これからだ。新たな「デファクト・スタンダード」になりうる技術に日本企業は力を入れていくべきだ。
藤原正彦〈日本と韓国「国家の品格」〉
筆者の命を救った、ある朝鮮人老婦の話が出てくる。1945年8月の当時、満州生まれの筆者は三歳になったばかり。突然満州に侵攻してきたソ連軍から逃れるため、母親に連れられて、三人のきょうだいは北鮮から必死の南下をしているところだった。
38度線を突破し、泥に浸かる山道を歩いているときに、ついに筆者が歩けなくなる。母親が筆者を横抱きにして小さな草葺の農家に飛び込む。老婦は直ちに筆者の非常事態を察し、疲労凍死寸前の筆者をマッサージし、救った。この老婦の温情がなかったら、「母子四人は全滅したはず」と筆者は静かに書く。
母親は後に、「朝鮮の金持ちは冷たかったけど、貧しい人たちは皆とても親切だった。”涙”を知っている人々だった」と、筆者に語った。
筆者は〈韓国人は「惻隠の情」を持っている。そこにこそ希望があります〉と書く。
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〈韓国人がこの心を持っている限り、日本と韓国には分かりあえる可能性が残されている〉と筆者は述べる。読者に多くのことを考えさせる文章だ。
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実は、篠原常一郎氏がこの文章を読むようにとある動画で勧めていた。その説明を聞いて本号を読んだのだが、読んでよかった。他にも有益で感銘を受ける文章が複数あり、有意義な時間を過ごすことができた。対価に見合うだけの雑誌に出会うことが稀なこの頃、いい発見をした。
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