[英詩]ボブ・ディランを読み解く
※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。
(主配信)ボブ・ディランの2006年のアルバム 'Modern Times' に収められた歌 'Workingman's Blues #2' はくせものだ。読み解きがいがある。
詩人ディランが一体どういう詩の形でこの歌を作ったのかを手がかりにして読んでみる。
聴いてみる
ディランの公式動画で聴ける。
もちろん CD でも買える。アマゾンで輸入盤が約900円。傑作アルバムなので聴く価値がある。iTunes だとこの曲は200円。
歌詞をみる(第1連)
歌詞はボブ・ディランの公式サイトにある。8行の連が8つあり、間に4行のリフレーンがはさまる長い詩だ。第1連は次のようになっている。
Workingman’s Blues #2
There's an evenin' haze settlin' over the town
Starlight by the edge of the creek
The buyin' power of the proletariat's gone down
Money's gettin' shallow and weak
The place I love best is a sweet memory
It's a new path that we trod
They say low wages are a reality
If we want to compete abroad
ボブ・ディランはノーベル文学賞候補にも毎年あがるほどで、その詩作についてはさまざまな研究がある。本作品についても古代ローマ文学にまで遡るソース・ハンティングもされている。[ディランは2016年のノーベル文学賞を授賞した。Nobel 文学賞委員の Sara Danius が記者に具体例を訊かれて 'Blonde on Blonde' (1966年のアルバム)を即答しただけでなく、デビュー盤以来の54年間の詩作を全部視野に入れて評価していたことは当然とはいえ驚かされた。Homer (ホメーロス), Sappho (サッフォー)の詩的伝統に連なるとしたことも。ギリシア以来の詩の伝統は〈歌われる詩〉が本来のものであり、ノーベル文学賞委員会はその詩の原点に還ったといえる。]
にしては、上記の詩行には句読点もなく、ルースな印象を受ける。あるいは、これが古いバラッド詩形であることから、民衆に親しみやすい形にわざとしたのかもしれない。
いまバラッド詩形といったけれども、本当にそうかどうかは分析してみないとわからない。ディランの詩は多くのポップ・リリック(ポピュラー・ソングの歌詞)を分析するうえで恰好のお手本になるくらい精密な構造をしている。
詩形
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