[英詩]伝統歌の基礎知識(2)——ボブ・ディランの場合
※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。
秋風の訪れとともに歌を聴きたくなります。前回はポール・ブレーディの名唱 'Arthur McBride' を取上げました。今回はボブ・ディランの 'Blood in My Eyes' を取上げます。アルバム 'World Gone Wrong' (1993) に収められています。
このアルバムを見ると、'Traditional - Arranged by: B. Dylan' と書いてあります。この歌だけでなく、アルバムの他の曲もほとんど同じ表記で、要は伝統歌をボブ・ディランがアレンジしたものです。どんな歌でしょうか。
動画リンク [Bob Dylan, 'Blood in My Eyes' (Official HD Video)]
どこか惹きつけられる歌ですね。これが伝統歌をもとにしているとは、もとの歌に関心がわきます。誰が作った歌なのでしょう。
このあと、作者、歌詞原詩、日本語訳、韻律、解釈を順次、みていきますが、当マガジンの本配信の毎月1回目は英詩の基礎知識を扱うので、丁寧に基礎からお話しします。
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このあと、本配信の2回目にはふつうの英詩(このところはノーベル賞詩人のシェーマス・ヒーニをやっています)、3回目に歌われる英詩(最近はボブ・ディランの歌をやっています)を取上げる予定です。ほかに、副配信として、サブ・テーマみたいなのを1回か2回配信することが多いです。今回は1回目もたまたまボブ・ディランです。
目次
作者
原詩
日本語訳
韻律
解釈
ブルーズ語句辞典
意味の逆転
blood の古い意味
まとめると
ma'ma
もとのブルーズ
参考文献
※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(201709)」へどうぞ。
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英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈英語で書かれた詩〉〈歌われる英詩〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2016年11月から主にボブ・ディランとシェーマス・ヒーニでやっています。英語で書く詩人として最新のノーベル文学賞詩人たちです。
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。
これまでに扱った基礎知識のトピックについては「英詩の基礎知識 バックナンバー」(「英詩の基礎知識(6)」に収録)をご覧ください。
「Bob Dylanの基礎知識(1)」「Bob Dylanの基礎知識(2)」「Bob Dylanの基礎知識(3)」「Bob Dylanの基礎知識(4)」もあります。
「バラッドの基礎知識(1)」「バラッドの基礎知識(2)」もあります。
「ブルーズの基礎知識(1)」「ブルーズの基礎知識(2)」「ブルーズの基礎知識(3) 'dust my broom'」もあります。
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作者
'Blood in My Eyes' について、ボブ・ディランは自分で解説を書いている。菅野ヘッケル訳で読んでみよう。
よく知らない人はこれを読んで、この歌が「日々の機械的作業に対する反抗」というテーマに関係すると思うかも知れない。が、あとで見るように、まったく関係ない。では「無駄がない」というのは。それはそうかも知れない。「現代(新暗黒時代)にまさにぴったり」というのは、そう思ったからこそディランは取上げたのだろう。
アルバムには鈴木カツの解説もあり、さらに詳しい。
詳しいとはいっても、録音とレーベルの話だけで歌そのもののことは語っていない。
という具合に、伝統歌をもとにした場合、それについての記述は驚くほどスカスカであることが多い。中身については自分で考えなければならない。
作者は上に出てきた Walter Vinson (1901-75) である。Mississippi Sheiks のメンバーだ。
彼が書いたと分かっているにもかかわらず、なぜディランは「伝統歌」とクレジットしたか。多くの場合、そういうことが行われるようだ。(あるいは、ディランは彼が書いたと知らなかった可能性もある。単にそのグループのレパートリだと考えていたかも知れない。ディランの解説からはそうとも窺える。)
'I've Got Blood In My Eyes For You' の録音は1931年で、ディランがこの歌をアレンジして発表したのが1993年。当時の著作権法では著作権の保護期間が著作者の死後50年までだったから、2025年までは著作権が存したはずである。作者名を書けば。だが、書かず、「伝統歌」とした。そこには、ブルーズ伝統に対する一般の理解が恐らく反映されている。すなわち、個人名が作者としてクレジットされていたとしても、それはブルーズの伝統を吸収し反映し、その個人がアレンジしたものとの理解がそこにある。
そのような理解は別にブルーズに限らない。英国のバラッド歌などでも同様だ。しかし、個人のフォークシンガーがほどこしたアレンジを使ってそれを自作曲とクレジットすることは問題がある。マーティン・カーシの解釈をポール・サイモンが自作曲とクレジットした「スカーボロー・フェア」が有名な例だ(Simon and Garfunkel が作者とした)。後年、両者は和解したけれど。英国の歌の伝統に対する米国側の無思慮なやり方だった。カーシ自身はユーワン・マコールとペギー・シーガの歌集から歌を覚えた。
いま英国の歌の伝統と書いたが、英国にもちろん限らない。歌の伝統はその時のシンガーのアレンジで今日風に表現され、それが次のシンガーによりまた別のアレンジを施され、といったことが延々と続く。それが伝統だ。
そう考えると、ディランのクレジット 'Traditional - Arranged by: B. Dylan' は伝統曲の扱いをよくわきまえた、ちゃんとしたものだ。いつもそうとは限らないけれど。
原詩
Blood in My Eyes
Bob Dylan
Woke up this morning, feeling blue,
Seen a good-lookin' girl, can I make love with you?
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you,
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you.
I got blood in my eyes for you, babe,
I don't care what in the world you do.
I went back home, put on my tie,
Gonna get that girl that money that money will buy.
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you,
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you.
I got blood in my eyes for you, babe,
I don't care what in the world you do.
She looked at me, begin to smile,
Said, "Hey, hey, man, can't you wait a little while?"
No, no, babe, I got blood in my eyes for you,
No, no, babe, I got blood in my eyes for you.
Got blood in my eyes for you, babe,
I don't care what in the world you do.
No, no, ma'ma, I can't wait,
You got my money, now you're trying to break this date.
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you,
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you.
I got blood in my eyes for you, babe,
I don't care what in the world you do.
I tell you something, tell you the facts,
You don't want me, give my money back.
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you,
Hey, hey, babe, I got blood in my eyes for you.
I got blood in my eyes for you, babe,
I don't care what in the world you do.
日本語訳
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