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【書評】カエルの楽園2020 (改)
著者 百田尚樹
2020年5月9-10日限定公開 ( https://ncode.syosetu.com/n4198gf/ )
※「抜書き」を附記しました(5月10日)
良い点
まさに今こそ読むべき小説です。悲しみを覚えますが、この悲しみは多かれ少なかれ今の時代を生きる人びとが共有しているものではないかと感じます。
気になる点
今という時代の貴重な記録として、将来の世代が想像力を働かせるきっかけになるでしょう。書籍化されれば!
一言
公開に感謝します。連載の「新相対性理論」の時間のことを想起しました。貴重な時間を分け与えてくださったことに本当に感謝します。
アレゴリーの謎解き
※ネタバレを含みますので、ご注意
鷲のスチームボート:bald eagle を国璽とするくにの大河をゆく
ハンニバル三兄弟:おかとうみとそらで活躍
デイブレイク:夜明けにのぼりくる
ナパージュ:NAPAJ とつづるのでしょう
ハンドレッド:読者は百も承知
ハエ:まさか Lord of the Flies とは関係ないと思いますが
ソクラテス:無知の知
エコノミン:ハエの評論家
抜書き
※丸括弧内の数字は章
「ウシガエルもスチームボートさんが怖いんですね」
スチームボートはまんざらでもない顔をしたものの、すぐに暗い表情になりました。
「しかし、わしも年老いた。いつまでも飛ぶことはできない。わしが飛ぶことができなくなったら、そこら中がウシガエルの池だらけになってしまうかもしれん」
ソクラテスはそんな未来は絶対にごめんだと思いました。(1)
*
「これだから、素人は困るよ」エコノミンはバカにしたような笑みを浮かべました。「病気というのはどんなふうにしても食い止められないんだよ。仮に今、ウシガエルがやってくるのを止めても、結局は何らかの形で入ってくる。ウシガエルが入ってくるのを止めても、ナパージュでの病気の流行を少し遅らせるくらいしか効果がないんだよ。ちゃんとそういうデータがあるんだ。俺は常にデータに基づいて喋っている。ハンドレッドみたいに根拠のない勘では喋らない」
「でも、もし病気の流行が遅れせられるなら、それって効果があるということじゃないんですか」
ソクラテスはエコノミンに質問しました。
「どうせ病気が流行るなら、そんなことしてもしなくても同じじゃないか」
そう言われれば、そんな気もしてきました。(2)
*
「防げたカエルはいないんですか」
「ウシガエルの沼の東にある小さな池に住んでいるカエルたちは、すべてのウシガエルを入れないことで、病気を防ぐことに成功したみたいだ」
「そのカエルはウシガエルのハエを当てにはしてなかったんですね」
「いや、ナパージュ以上にウシガエルのハエをすごく当てにしていたカエルたちだ。でも、そのハエ欲しさにウシガエルを池に入れたら大変なことになるとリーダーが考えて、ウシガエルを一切入れなかったんだ」
「優れたリーダーだったんですね」
「最高のリーダーだ」ハンニバルは言いました。「そのリーダーは、最初は、多くのカエルたちに責められたらしいが、今では英雄として尊敬を集めている」(3 ①)
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多くのツチガエルたちが不満に思っていたのは、元老たちは皆、満足にハエを食べていたことです。というのは元老たちがいる緑の池と小島にはハエはふんだんにいて、彼らは移動の自由がなくても、まったく食べることに困らなかったからです。つまり元老たちは、本当に腹が減っているカエルたちの苦しみはわからなかったのです。(3 ②)
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それから何日か経ちました。
病気はさらに減っていきましたが、ツチガエルたちが空腹のために次々と倒れていきました。その多くが壮年のカエルや若いカエルたちです。
さすがにその状況を重く見たプロメテウスは、ある日突然、移動の禁止を解きました。
「病気に詳しい委員たちは、まだ移動の制限を続けるべきだと言っていますが、私の権限で、今日から移動を自由にします」
しかしもうその頃には、ほとんどのツチガエルが弱ってしまって、満足に移動ができない有様になっていました。
プロメテウスは、ようやく「ハエを十匹食べたら一匹をナパージュに差し出す」決まりをやめました。しかしもうその頃には、ハエを差し出せるツチガエルはほとんどいなくなっていました。(終章①(バッドエンド))
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なお、著者は序章で次のように書いている。
なお、『カエルの楽園2020』のエンディングは二種類想定していましたが、今回の投稿では、一種類のエンディングしかありません。実はもう一種類のエンディングは、書くのに少し迷うところがあり、その完成を待っていると、投稿のタイミングが遅れるために、一種類のエンディングのみで投稿いたしました。
もう一つのエンディングはこれから書くつもりですが、あるいは書けないかもしれません。というのは、最後まで読んでいただければわかると思いますが、もう一つのエンディングこそは私の願望とも言える形になるもので、現実との折り合いをどうつけるかという厄介な問題を孕んでいるからです。
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「もう一つのエンディング」をぜひ読みたい。書籍化のときにでも。ぜひ。