[英詩]「風に吹かれて」の詩的技巧
※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」('Blowin’ in the Wind')はプロテスト・ソングとして有名だ。
だけど、そのプロテストはどれほどの力があるのか。いまも唄われるこの歌は英語話者の胸にどんな火をともすのか。
それを考えるには、漫然と、フォークソングとして聞くだけでは、たぶんピンと来ないだろう。下手をすると、のどかな、やさしい歌と聞こえかねない。
歌詞の意味はおそらくよく知られているだろう。問題はこれを詩として受取ったときのインパクトの強さだ。
それをまともに論じたら5,000字は超えるだろうけれど、そんなもの、なかなか読まれないだろう。最初の4行だけでも、ちょっと見てみることにする。
一見ものすごくシンプルに見える。が、これは詩としては相当にすごい。そのすごさを感じた英語話者は、おそらくなぜそんなに凄いのか、理由が自分でもわからないだろう。
「穴埋め式勉強法」というのがある。自分で「穴埋め問題」をつくって考えを深めるというやり方だ(参考:河合薫『考える力を鍛える「穴あけ」勉強法』草思社、2016年)。この4行について「穴埋め問題」をつくってみよう。
1. 1行目の「」は「」の隠喩(メタファ)だ
2. 3行目の「」は「」の隠喩(メタファ)だ
3. 2行目は「」という意味だ
4. 1行目の「」と「」は頭韻をなし「」と「」は子音韻をなす
5. 3行目の「」と「」は母音韻をなす
6. 4行目の「」と「」は頭韻をなす
7. この4行は古い「」の詩形だ
8. 1-2行と3-4行とは意味的「」をなす
9. だとすれば両者に共通するのは「」だ
10. その場合に3行目の後半は「」を意味する
この調子であと5問くらいは作れる。どれも基本的な問いだ。英語話者はこれらを一瞬のうちに直観的にさとる。歌を聞いたときに、自分の中にそれが体感されるのだ。
で、問題はここから始まる。これらのことを一瞬のうちに体得した人の身に何が起こるか。それこそがディランの歌のもつ本当のパワーだ。それが起こったとき、歌は聞き手の中でまるで震源地となり、その人を根底からゆさぶる。
解答
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