[英詩]ディランと聖書(18) 聖書と文学(Gilmour-7)
※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。
※「英詩のマガジン」の主配信の4月の1回目です(英詩の基礎知識の回)。
ディランと聖書の関りについて、原点に返って考えてみます。この問題は、〈ディラン〉を (西欧の)〈詩〉や〈小説〉に置換えても ほぼ成立します。
新約聖書学者のギルモー (Michael J. Gilmour) の研究 (下、下記の基本的文献の 4.) について、そのアプローチを正面から考える7回めです。
前々々回は、ギルモーの採る方法論 Intertextuality を対話の観点から考えました。前々回はその続きで、作者がはっきりと依存関係を示すことがある場合を考えました。読者が文学的先行者を認識してくれるよう、作者が期待することもよくあります。ディランの場合として 'a strange woman' に関る例を3つ見ました。
前回は、ディランが intertextuality をよく認識していることについて考えました。自分のことを 'a thief of thoughts' 〈思想の盗人〉と呼んだこともあります。ディランに流れ込む先行者の影響のうちに間違いなく聖書が含まれること、その聖書の影響源がディランの考えを解き明かす「かぎ」(keys) となることを、ギルモーは指摘します。'Masters of War' を例にとって、聖書の影響をディランがどう定型詩にしているかを見ました。
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本マガジンは英詩の実践的な読みのコツを考えるものですが、毎月3回の主配信のうち、第1回は英詩の基礎知識を取上げています。
これまで、英詩の基礎知識として、伝統歌の基礎知識、Bob Dylan の基礎知識、バラッドの基礎知識、ブルーズの基礎知識、詩形の基礎知識などを扱ってきました。(リンク集は こちら )
また、詩の文法を実践的に考える例として、「ディランの文法」と題して、ボブ・ディランの作品を連続して扱いました。(リンク集は こちら )
詩において問題になる、天才と審美眼を、ボブ・ディランが調和させた初の作品として 'John Wesley Harding' をアルバムとして考えました。(リンク集は こちら)
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また、7回にわたってボブ・ディランとシェークスピアについて扱いました (リンク集は こちら)。
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最近は、歴史的には、そして英語史的にも、同時代の英訳聖書と、ディランについて扱っています。
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「ディランと聖書」シリーズの第1回でもあげましたが、ディランと聖書の問題を考えるうえでの基本的文献は次の通りです。
Bradford, A[dam]. T[imothy]. 𝑌𝑜𝑛𝑑𝑒𝑟 𝐶𝑜𝑚𝑒𝑠 𝑆𝑖𝑛 [formerly 𝑂𝑢𝑡 𝑜𝑓 𝑡ℎ𝑒 𝐷𝑎𝑟𝑘 𝑊𝑜𝑜𝑑𝑠: 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛, 𝐷𝑒𝑝𝑟𝑒𝑠𝑠𝑖𝑜𝑛 𝑎𝑛𝑑 𝐹𝑎𝑖𝑡ℎ] (Templehouse P, 2015)
Cartwright, Bert. 𝑇ℎ𝑒 𝐵𝑖𝑏𝑙𝑒 𝑖𝑛 𝑡ℎ𝑒 𝐿𝑦𝑟𝑖𝑐𝑠 𝑜𝑓 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛, rev. ed. (1985; Wanted Man, 1992)
Di Lauro, Frances. ‘Living in the End Times: The Prophetic Language of Bob Dylan’ (Book chapter in Carole M. Cusack, Frances Di Lauro and Christopher Hartney, eds., 𝑇ℎ𝑒 𝐵𝑢𝑑𝑑ℎ𝑎 𝑜𝑓 𝑆𝑢𝑏𝑢𝑟𝑏𝑖𝑎: 𝑃𝑟𝑜𝑐𝑒𝑒𝑑𝑖𝑛𝑔𝑠 𝑜𝑓 𝑡ℎ𝑒 𝐸𝑖𝑔ℎ𝑡ℎ 𝐴𝑢𝑠𝑡𝑟𝑎𝑙𝑖𝑎𝑛 𝑎𝑛𝑑 𝐼𝑛𝑡𝑒𝑟𝑛𝑎𝑡𝑖𝑜𝑛𝑎𝑙 𝑅𝑒𝑙𝑖𝑔𝑖𝑜𝑛, 𝐿𝑖𝑡𝑒𝑟𝑎𝑡𝑢𝑟𝑒 𝑎𝑛𝑑 𝑡ℎ𝑒 𝐴𝑟𝑡𝑠 𝐶𝑜𝑛𝑓𝑒𝑟𝑒𝑛𝑐𝑒 2004, pp. 186-202, Sydney: RLA P, 2005) [URL]
Gilmour, Michael J. 𝑇𝑎𝑛𝑔𝑙𝑒𝑑 𝑈𝑝 𝑖𝑛 𝑡ℎ𝑒 𝐵𝑖𝑏𝑙𝑒 (Continuum, 2004)
Heylin, Clinton. 𝑇𝑟𝑜𝑢𝑏𝑙𝑒 𝑖𝑛 𝑀𝑖𝑛𝑑: 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛'𝑠 𝐺𝑜𝑠𝑝𝑒𝑙 𝑌𝑒𝑎𝑟𝑠 - 𝑊ℎ𝑎𝑡 𝑅𝑒𝑎𝑙𝑙𝑦 𝐻𝑎𝑝𝑝𝑒𝑛𝑒𝑑 (Route, 2017)
Karwowski, Michael. 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛: 𝑊ℎ𝑎𝑡 𝑡ℎ𝑒 𝑆𝑜𝑛𝑔𝑠 𝑀𝑒𝑎𝑛 (Matador, 2019)
Kvalvaag, Robert W. and Geir Winje, eds., 𝐴 𝐺𝑜𝑑 𝑜𝑓 𝑇𝑖𝑚𝑒 𝑎𝑛𝑑 𝑆𝑝𝑎𝑐𝑒: 𝑁𝑒𝑤 𝑃𝑒𝑟𝑠𝑝𝑒𝑐𝑡𝑖𝑣𝑒𝑠 𝑜𝑛 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛 𝑎𝑛𝑑 𝑅𝑒𝑙𝑖𝑔𝑖𝑜𝑛 (Cappelen Damm Akademisk, 2019) [URL]
Marshall, Scott M. 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛: 𝐴 𝑆𝑝𝑖𝑟𝑖𝑡𝑢𝑎𝑙 𝐿𝑖𝑓𝑒 (WND Books, 2017)
Rogovoy, Seth. 𝐵𝑜𝑏 𝐷𝑦𝑙𝑎𝑛: 𝑃𝑟𝑜𝑝ℎ𝑒𝑡, 𝑀𝑦𝑠𝑡𝑖𝑐, 𝑃𝑜𝑒𝑡 (Scribner, 2009)
これら以外にも、一般のディラン研究書のなかにも聖書関連の言及は多く含まれています。それらについては、参考文献 のリストを参照してください。
※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202204)」へどうぞ。
このマガジンは月額課金(定期購読)のマガジンです。月に本配信を3回お届けします。各配信は分売もします。
英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新のノーベル文学賞詩人 Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。
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これまでのまとめ
ディランと聖書の問題を扱うシリーズの概要は次の通りです。
シリーズの (1), (2), (3), (4) についての簡単なまとめは こちら。
シリーズの (5), (6), (7), (8) についての簡単なまとめは こちら。
シリーズの (9), (10), (11) についての簡単なまとめは こちら。
シリーズの (12), (13), (14), (15) についての簡単なまとめは こちら。
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シリーズの (16) は、作者が読者にどうやって先行する源泉を示すのか、の問題を扱う。典拠を明示する、典拠から引用する、の2つの方法がある。ただ、引用の場合は、読者が元ネタに気づかないリスクがある。その例として、聖書が挙げられる。ディランの場合について、'a strange woman' に関る3つの例を見る。
シリーズの (17) は、ディランが intertextuality をよく認識していること、ディランに流れ込む先行者の影響のうちに間違いなく聖書が含まれること、その聖書の影響源がディランの考えを解き明かす「かぎ」(keys) となることを考える。'Masters of War' を例にとって、聖書の影響をディランがどう定型詩にしているかを見る。
ディランと聖書をめぐる4つのテーマ
聖書学者のギルモーは、𝑇𝑎𝑛𝑔𝑙𝑒𝑑 𝑈𝑝 𝑖𝑛 𝑡ℎ𝑒 𝐵𝑖𝑏𝑙𝑒 (2004) において、4つのテーマを扱う。
ディランの作品と聖書の預言者の行い・言葉とがどう関るか (2章)
イエスの山上の垂訓をディランがどう用いるか (3章)
死・神義論・黙示的審判をディランがどう考えるか (4章)
ディランのアルバム "Love and Theft" (2001) の解釈 (5章)
この4つは、それぞれ、主に、旧約聖書、新約聖書、神学、アルバム作品に関る。
それぞれについて、簡単に説明し、最後にディランの用いる聖書の英訳の版にふれる。
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