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[英詩]Bob Dylan, 'Workingman's Blues #2' (1)

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

英詩のマガジン の本配信、今月2本目です。歌われる詩の1回めです。今回は、ボブ・ディランのアルバム 'Modern Times' (2006年、下) に収められた 'Workingman's Blues #2' です。今回は1-4連を扱います。

Bob Dylan, ‘Modern Times’ (2006)

録音は2001年2月 (Sony Music Studios, New York)。録音エンジニアは Chris Shaw. プロデユーサは Jack Frost (Bob Dylan).

次の参加ミュージシャン。

Bob Dylan - vo, p
Stu Kimball - g
Denny Freeman - g
Donnie Herron - steel g, violin (?), org (?)
Tony Garnier - b
George G. Receli - ds

(vo: vocals, p: piano, g: guitar, org: organ, b: bass, ds: drums)

本歌のオルガン奏者は不明とされていますが、2006年10月16日のサン・フランシスコでの演奏からすると、ボブ・ディラン自身が弾いているのかもしれません。

この歌は本マガジンで取上げたことがあります ([英詩]ボブ・ディランを読み解く[英詩]Bob Dylan, 'Workingman's Blues #2' 再訪(完全版) )。が、リクス校訂版に基づき、最近の分析形式 (原詩+注+日本語訳+韻律+解釈) ですべての連を扱うのは今回が初めてです。

ボブ・ディランの詩がいかに韻文としての構成をしているのかを知るのには最適の例の一つで、強勢の配置を意識して聴けば、完全に韻律にのっとっているのが手に取るように分る歌です。


タイトルに '#2' (ナンバー・トゥー ) とありますが、カントリー・シンガーのマール・ハガードの 'Workin' Man Blues' へのアンサー・ソングの意味合いがあります。1969年7月にビルボード誌のカントリー・チャートで1位になったヒット曲です (下)。

動画リンク [Merle Haggard, 'Workin' Man Blues']

その歌のリフレーン ('Sing a little bit of these working man blues') はディランの歌にもそのまま採りいれられています(コーラス4行)。いい歌だけれど、現代の時点から見ると、きびしかった当時の労働者の生活は、海外での戦争がからまない分、「古き良き時代」にも見えてしまいます。しかし、いつの時代も、最もしわ寄せが来るのは労働者という点は共通しています。

参考文献 は、文字数の関係で別の note にあります。

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202202)」へどうぞ。

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【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新のノーベル文学賞詩人 Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

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🔶 Workingman's Blues #2

次のボブ・ディランの詩テクストはリクスらの校訂版による。

動画リンク [Bob Dylan 'Workingman's Blues #2' (Official Audio)]


大量の intertext について

以下の詩テクストには大量の intertext (インターテクスチュアルな関係にあるテクスト) が指摘されており、注で列挙している。米国の詩人やブルーズなどへの言及はいつものディランの場合と同様だが、本歌についてはローマの詩人のオウィディウス (Ovid, 43 BC–17/18 AD) の指摘が大量にある。

多くは Peter Green の英訳 (1994) への言及を指摘している (下)。

Ovid, 𝑇ℎ𝑒 𝑃𝑜𝑒𝑚𝑠 𝑜𝑓 𝐸𝑥𝑖𝑙𝑒 (Penguin Classics, 1994)

ところが、Green に先行する A. L. Wheeler の英訳 (1924) に元々の表現が見られることがある。Wheeler 訳は、西洋古典を研究する場合のスタンダードである Loeb 版に含まれているものであり、ローマ・ギリシア文学に取組む人には親しまれている (下)。

Ovid, 𝑇𝑟𝑖𝑠𝑡𝑖𝑎. 𝐸𝑥 𝑃𝑜𝑛𝑡𝑜 (Loeb Classical Library, 1924)

古典の現代語訳をする場合、先行する訳を参照するのは普通のことで、そこに同様の表現が見られたとしても特に問題になることはない。ただ、ディラン研究においては Green 訳のみを挙げるケースが多く、Wheeler 訳を閑却しているのはよくないので、以下の注では、可能な限り、両者を並記してある。

仮に、ディランが Green 訳のみを用いていたとしても、その Green 訳には先行する Wheeler 訳のエコーがあることがある。このように、インターテクスチュアルな関係は重層的なケースが多い。


Workingman's Blues #2
Bob Dylan

🔷1連

There's an evening haze settling over town
 Starlight by the edge of the creek
The buying power of the proletariat's gone down
 Money's getting shallow and weak
  Well, the place I love best is a sweet memory
   It's a new path that we trod
  They say low wages are reality
   If we want to compete abroad

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