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Netflix「リンカーン弁護士」の感想。

Netflixにて「リンカーン弁護士」のドラマシリーズが配信されました。
この記事にはネタバレはありません。

リンカーン弁護士とは、高級車リンカーンの後部座席をオフィス代わりに刑事事件を扱うミッキー・ハラー弁護士の渾名で、マイクル・コナリーによる原作「リンカーン弁護士 ミッキー・ハラー シリーズ」のタイトルでもあります。

マイクル・コナリーはアメリカのハードボイルド小説作家で「ハリー・ボッシュ シリーズ」の代表作で知られ、ハリー・ボッシュ シリーズは人気刑事ドラマシリーズ「BOSCH」としてお馴染みです。
リンカーン弁護士はその兄弟作品ともいえる人気シリーズで、実際にミッキー・ハラー弁護士はハリー・ボッシュ刑事の異母弟で、原作の作中では相互に顔を出しています。
BOSCHとマイクル・コナリーについては以前に記事を書いたのでこちらをご覧ください。

映画版が一般にはお馴染みかも

リンカーン弁護士と聞いて「過去に映画で観たことあるよ」という人も多いかと思います。
2011年にマシュー・マコノヒー主演で一度、映像化されています。

マシュー・マコノヒー主演「リンカーン弁護士」
原作1作目「リンカーン弁護士」をもとに製作

映画は堅実な成果を出し支持もあったため長らく続編が製作されるという話題はあったのですが、10年間ずっと続編製作は実現しませんでした。

再構築したシリーズドラマ版として

その代わりに、2020年頃の放送を目指して2019年からCBSにてドラマシリーズが製作されていたのですが、途中で中止となりドラマ化と放映(配信)権をNetflixが引継ぎ今回の製作配信に至りました。
無事にドラマ化されたことを喜ぶ人は多いですが同時に不満もあって、それは何かというとCBSのラインを外れてしまったためBOSCHシリーズとクロスオーバーできなくなり、本来はリンカーン弁護士にも登場するはずのボッシュ刑事が顔を出せなくなりました。
これはとても残念なことです。理由も大人の事情というやつなので最悪です。
まあ、ですが、ボッシュがいなくても充分におもしろいドラマですので大きな問題はありません。

マヌエル・ガルシア=ルルフォ主演Netflixドラマシリーズ「リンカーン弁護士」
原作2作目「真鍮の評決」をもとに製作

本作は映画版(同時に原作1作目)の時系列を引き継ぎ、原作2作目「真鍮の評決」をベースに製作されています。
その関係もあり前作を知らないと「どういう経緯でこの人はいるんだろう」みたいなことはあるかも知れません。
原作ではこの真鍮の評決にボッシュ刑事が初登場するため、なかなか重要な物語でもあるのですが当然ドラマには出てきません。やはり残念。

法廷劇を中心とした弁護士ドラマ

作品は10本のエピソードに分け配信されていて、ドラマの半分以上は「法廷劇」となります。残りの約半分は推理や家族について描かれています。
(弁護士モノでは必然とそうなりますね)
ここでおもしろいのは「ハードボイルド作品」だということ。
法廷をエンターテインメントの場になどしていなくて淡々と審理は進みます。
人気の弁護士事務所ドラマや審理コンサルタントドラマのような派手な演出などなく、事実を積み重ね協議し駆け引きをして勝利を勝ち取る弁護士の姿が描かれます。
過剰な演出がないので場の厳粛さや緊張感のようなものがかえって現実的です。

地味を楽しむドラマ

弁護士は刑事でも民事でも裁判のために調査員(当然のことながら弁護士自身も)が必死に有利となる事実だけを集め不明瞭な全貌をクリアにしていく必要があり、それは地味なこともあれば危険なこともあり現実にそのようにおこなわれています。
警察官のような捜査権はないですから頭を使いどうすれば情報が集められるかという「地道で姑息な努力の集積」といえるでしょう。法廷ではその水面下の努力の成果が花開くわけです。
ただ、刑事事件では検察側は見つけ出した事実を覆す新たな事実で対抗してくる、またそれを覆す法廷闘争があるわけですが、これを視聴者は陪審員のように見守るしかありません。

法曹界といってもクリーンではない

また、法曹界はどこの国でもクリーンではありません。
それぞれにグレー、時にブラックな部分がありそこも冷めた視点で描かれていて、法律家は社会正義の代行者ではなくビジネスマンだということがわかります。
特に弁護士は、クライアントが「悪い奴」とわかった上でもクライアントを守る(正確には社会的不名誉や不利益、罰を最小化する)ことが仕事になるわけで、その葛藤などもビターな感じで描かれています。

敏腕だが正義のヒーローではない

ミッキー・ハラー弁護士は、10話を通して複数の法廷案件こなしつつメインテーマとなる大きな事件についても「勝利」のために進めていきます。
無理があるほど詰め込まれた案件をすべて片付けていくのですが、それぞれで負けてはいなくてちゃんとクライアントを救っています。小さな案件であろうとクライアントを守ることが弁護士の仕事だということです。
そして、メインとなる刑事事件にも勝利します。
でもミッキー・ハラー弁護士は裁判に勝てても祝えるほど嬉しくはないのです。
なぜならばクライアントは限りなく黒に近いからです。
裁判に勝つことが事件の解決でもなければ真実の究明でもなく、事実を積み上げていった結果に対して陪審員が下した評決でしかないからです。
―真鍮の評決。
釈然としない気持ちを抱え、彼はどう動くのでしょうか?
裁判に勝ったからめでたくフィナーレというわけではありません。

作品の結末については、ぜひドラマを観て楽しんでもらえればと思います。
特に無敵のスーパーヒーローでも正義の刑事でもなく、何度もの離婚や事故に挫折、依存症を克服してもなお士業復帰への不安を抱えた中年刑事弁護士が「ドラマチックではなく」再起していく姿。
そして、前妻が養育する「ひとり娘」とどう距離をとり接していいか悩みながら、娘を傷つけない父親であろうと努力する姿。
そういった血の通った人間らしい、社会に暮らすひとりの冴えない部分のある男を描いたドラマでもあるので、爽快感だけでなくビターな現実味も感じられるのではないでしょうか。
堅苦しくはないけど派手すぎもしない、まさに大人向けのドラマだと思います。


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