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『値段史年表 明治・大正・昭和』ノート
週刊朝日編
朝日新聞社刊
筆者は社会人になってから、毎週「週刊朝日」を駅の売店などで買って、通勤時に読んでいた。いろいろ面白い連載記事や企画が満載で読み応えがあった。
この『値段史年表 明治・大正・昭和』の元になった「値段の〈明治・大正・昭和〉風俗史」は昭和54(1979)年10月から昭和58(1983)年末まで4年3か月もの期間、週刊朝日(令和5年5月末に休刊)に連載されていた人気記事であった。筆者も毎週楽しみにしていた。
この連載記事で取り上げられていた物やサービスは218種類で、その値段の変遷だけをまとめて年別に表にしたのがこの本である。
物やサービスは五十音順に並べてある。
あ行の先頭は、「アイスクリーム」で、明治35年には15銭だったものが昭和62年には550円になっている。この値段は、東京の高級パーラーでのアイスクリームの値段である。わ行最後の項目は「和文タイプライター」で、昭和62(1987)年に41万円という価格だった。その後、ワープロに取って代わられ巷から消えたものの一つである。筆者も出版社勤務当時に、原稿依頼の文書を、活字を探しながら、手動でガチャガチャと打っていた覚えがある。いまでもネットオークションで数千円から数万円で出ている。
芥川賞・直木賞の賞金は昭和10年の第1回が正賞として時計と副賞500円で、昭和62年下期ではやはり時計と副賞50万円。ちなみに現在の正賞は懐中時計と副賞100万円になっている。
そのほかア行では小豆の値段やアンパン(昭和62年は90円)、うな重、映画館入場料(昭和62年は1500円でいまと余り変わらない)、鉛筆、おみくじなどが取り上げられている。
興味深いのはガソリン1リットルの値段だ。私が車に乗り始めた昭和46年頃は57円で、昭和48年には66円、翌年には98円、50年には112円と値上がりし、昭和57年がピークで172円、昭和61年には128円に下がっている。ピーク時の値段は、今とあまり変わらないのに驚いた。当時の収入から考えると、ガソリン代は高かった。
そのほか歌舞伎座の観覧料とか、いまはほとんど見られない蚊帳などが取り上げられている。
食べ物では、カレーライスが明治35年頃は5~7銭で、昭和62年は500円。私が大学に入った昭和46年は180円。ちなみに西の果ての大学の学生食堂のカレーライスは80円だった。何故覚えているかというと、この本に筆者の字で書き込みがしてあったからだ。学食の素うどんは25円だった。
218種類もあるので、取り上げたらキリがないが、面白く興味があるところで、銀行員や公務員、国立大学の授業料(記事では東京大学の授業料となっている)、巡査の初任給、食パン、国務大臣や国会議員の報酬(正確には歳費)、定期預金の利息、霊園の永代使用料など。余り一般的ではないが○○○○○劇場の入場料などまで載っている。
筆者の記憶にあるところで、学生の頃(昭和40年代後半)の食パン一斤の値段は50円だったと記憶するが、昭和62年には145円になっている。
また国立大学の授業料は、私の入学時は月に1千円(年額1万2千円)だった。その頃、幼稚園の授業料が月に1千2百円だったので、それより安かったのである。それが、私が入学した翌年から一気に3倍(年額3万6千円)にすると大学当局から発表があり、学生運動に再び火がついた。ただし、その時に既に入学していた学生は、入学時の授業料のままだったので、実害はなかったのだが、これから入学してくる後輩たちのためを思って騒いだのか、大学紛争が下火になっていたので、その火種を運動家たちが大きくしたのか、今となっては分からない。大学構内に「学費値上げ反対」とか「暴挙を止めろ」などの立て看が林立していた。
いまは国立大学でも年額55万円くらいと記憶しているが、生活実感として一番値上がりが大きいような気がする。項目全てを詳細に調べたわけではないが……。
もう一つ、定期預金の利息は、明治15年が7分6厘2毛(7・62%)で、昭和55年が7・25%、昭和62年が3・64%で、記録が残っている中では明治15年の利息が一番高かったことになる。昭和55年というと、筆者が働き始めてようやく貯金ができるようになった頃だが、その頃の郵便局の定額貯金の利息は7%くらいで、しかも半年複利。10年間期限付きだったが、預けた額の倍近くになったと記憶している。いまはゼロ金利政策で、利息はないのと同じだが……。
この本が発刊されたのは昭和63(1988)年だ。これ以降の各種サービスや物の値段の変遷について誰か調べて本にしてくれないかなぁと読んで思った次第。大変な手間がかかるとは思うが……ひょっとしたら、ネットで調べられるかもしれないので、以前ほど手間暇がかからないかも。
お金の価値も単位も昔とは変わっているので、購買力平価で比較しなければ正確な価格の変遷は追えないが、ただ年と価格が並んでいるのを見るだけで飽きない。当時の人たちの消費生活や娯楽の一端が想像できて面白く、貴重なデータである。