『女に』ノート
谷川俊太郎 詩
佐野洋子 絵
マガジンハウス刊
私は、手元に読みたい本がない時は、すぐ手が届く小さなタワーのような本棚に置いてある詩集を開く。立原道造の詩集は学生時代に買って表紙がすり切れるほど読み返した。ほかに三好達治の『測量船』、ウマル・ハイヤームの『ルバイヤート』、茨木のり子の『茨木のり子詩集』、谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』や『日々の地図』などが置いてある。
詩集を開くと一気にその描く世界に引き込まれ、自分のこれまでのもやもやと積み重なった感情がリセットされるような気分になるのがいい。
谷川俊太郎の『女に』はそのうちの一冊で、『100万回生きたねこ』という絵本で有名な佐野洋子のエッチングで飾られている。
偶数ページには谷川俊太郎の4行から7行の詩がおかれ、奇数ページには佐野洋子のちょっとエロティックな線画が描かれている。あらためて読んでみたら、詩もそれに負けず劣らず大人の世界だ。すなわち見開きで一つの作品になっている。
わずか80ページ足らずの薄いダンボール製の函入りの本だが、本の表紙はパラフィン紙という薄い半透明の紙で包まれ、函から本を取り出すときには、ちょっと緊張する。パラフィン紙は表紙のヤケを防ぐための紙であり、取って捨ててもいいのだろうが、私は指の脂が少々染みてきてもなかなか捨てられない。
帯の表紙面には「生まれる前から ふたりは知り合っていた 死んだあとも ふたりは別れない」とあり、裏表紙面には「きりのないふたつの 旋律のようにからみあう 詩とエッチングの 織りなす愛の物語」とある。この意味深な帯の文句でわかる通り、この合作の詩集の作者二人は、実は結婚していたことがある。結婚したのは1990年で谷川俊太郎が還暦前、佐野洋子が50歳をちょっと過ぎた頃で、今でいう熟年結婚である。しかし1996年には別れている。
この絵詩集の初版は1991年3月だから、結婚してすぐの頃に出版されている。
この世で出会い、惹かれあって結婚した二人が、合作で本を残すなんてしゃれたことをしたものだ。「死んだあとも ふたりは別れない」ために残した絵詩集である。