見出し画像

『続 昭和史の女』ノート

澤地久枝著
文藝春秋社 1983〈昭和58〉年刊

 この本は文藝春秋の1980年8月号から連載された作品をまとめたものである。
 激動の昭和史を生きた女性たち――。ある人は華やかな経歴のみを残し、足早に去って行った。またある人は偏見や誤解の渦巻く中を、きっぱりと自己の生き方を貫いた。歴史の表舞台には決して登場することなく、埋もれたままの女性もいた。

 昭和史の前半は戦争の時代であった。男たちは戦場で傷つき倒れていった。その陰には夫を奪われた妻たちが数多くいた。彼女たちの苦難の人生を描いた〈夫の生還を信ず〉では、「赤紙」といわれた召集令状が、妻たちから日常生活を奪い、別れを告げる暇もなく、夫は戦地に赴き、残された妻は、父親の顔も知らない乳飲み子を抱え、あるいは身ごもった体で家族を支えてきた艱難辛苦の人生が描かれる。
消息不明のまま生存を信じて戦地からの夫の帰還をひたすら待ち続けている 彼女らは、法律による「戦時死亡宣告」も受け入れず、国に調査を頼むが、全く手がかりはない。
 昭和47年2月9日付の朝日新聞によれば、「宣告」を拒否して調査続行を望んでいる留守家族は、377家族あるという(この本の執筆当時の数)。

 その中の一人、張山あい子はわずか2年間の結婚生活で、当時33歳の夫を戦地に取られた。夫の途中までの消息は判明したが、以後の手がかりは全くない。
 父親の顔も知らない子どもを抱え、あい子はこう叫ぶ。
「こんどいくさになっても、絶対息子たちはやらない。銃の引き金を引く指をカタワにしてもやらない」と。
 そんな彼女たちにとって、戦争はまだ終わっていないのである。

 そのほか、大正14年に東京放送局(現在のNHK)の初代女性ラジオアナウンサーとなった人の輝かしい経歴に隠された真実の姿を追及した〈初代女性アナ翠川秋子の情死〉や、共産党の非合法活動の一面を描いた〈偽装結婚の愛と真実〉、建国間もない満州での殺人事件を扱った〈さまよえるノラ〉、日中両国の懸け橋となった姉妹の人生を描いた〈日中の懸橋 郭をとみと郭みさを〉、フランス人の血を引き、イタリアのスカラ座のプリマドンナをつとめた関屋敏子の死の真相に迫った〈伝説の中のプリマドンナ〉、小林多喜二の妻なのかハウスキーパーなのかと言われた伊藤ふじ子の70年の生涯を描いた〈小林多喜二への愛〉の全部で7話が収められている。

 著者は〝昭和〟が半世紀をこえ、「今書かなければ時代の証言者がいなくなってしまう」との思いでこの本を書いたという。平成を経て令和になった現在でも単なる過去の話として捉えるには余りに重いそれぞれの人生の記録である。

 後記:この本は『続 昭和史のおんな』であるから、当然『昭和史のおんな』も刊行されている。購入して読んだ記憶があるので今回取り上げようと本棚を探したが、見つからなかった。それが『続』を取り上げた理由である。

いいなと思ったら応援しよう!