見出し画像

『新・13歳のハローワーク』ノート

村上 龍著
(絵)はまのゆか
幻冬舎刊

 書店でタイトルをみて面白そうだと手を延ばして取ったら、危うく取り落としそうになるほどの重さだった。縦26・5センチ、横19・0センチ、厚さが2・5センチで大型の本製本で、570ページ。そして重さは1・4キログラムもあった。

 著者は1976年に『限りなく透明に近いブルー』で第75回芥川賞を受賞した村上龍だ。最近は、テレビ番組「カンブリア宮殿」のインタビュアーとして出演している。初めて知ったのだが、村上龍は金融経済を中心した「Japan Mail Media」の編集長も務めている。
 2003年には、514の職業を紹介した『13歳のハローワーク』が125万部を超える大ベストセラーとなっている。その大ベストセラーを大幅改訂し89の職業(ということは合計603の職業)を追加して112ページ増となった。帯によると、この新版も「160万部突破!」と書かれており、これまた大ベストセラーだ。

 この本の「はじめに」では、職業と仕事、働くことについて、基本的なことを考えるということで、「生きていくための必要事項を学んだあとで、子どもは誰でもいつかは大人になる」、また「子どもと大人の最も大きな違いは、社会的に自立できているかどうか」とし、さらに自立するためにもっとも必要なのは、生きるために必要なお金を自分で稼ぐことができるということではないか、という視点をまず提示している。

「どうやってお金を稼ぐか」の項では、〈仕事とお金の関係〉や〈仕事と好奇心〉、〈仕事と好き〉では「好きが仕事探しの入り口」といい、仕事を「探す」のではなく「出会う」、そして「自分探し」というムダなどに言及し、著者の仕事に対する基本的考え方を述べている。

 なぜ13歳なのかという点については、著者自身の体験から振り返るとともに、教育家や経済の専門家が28歳という年齢を、職業を決めるという目安としていることを参考にしている。
教育を受け、社会に出てしばらく時間が経って、だいたい28歳くらいをめどに、自分がどうやって生きていくのか、つまり職業を決めればいいという。
 13歳からは学校に行く人もあり、社会に出て働く人もおり、資格を取る人もいる。家の都合で、学校に行けない人もいる。それぞれに条件は違うが、28歳までの15年間、「自分に向いている職業」といつか出会う、という強い思いを持つ。その思いが、好奇心がすりへるのを防いでくれる。いろんな事に興味を持ち、いろんなことを試してみる勇気を与えてくれるのだ。

 第一章〈国語が好き・興味がある〉、第二章〈「社会」が好き・興味がある〉、第三章〈「数学が好き・興味がある〉、以下、第四章は理科、続いて音楽、美術、技術・家庭科、保健・体育、外国語、道徳と中学校での科目が続き、第11章は〈休み時間、放課後、学校行事が好き・ほっとする〉、第12章〈何も好きじゃない、何にも興味がないと、がっかりした子のための特別編〉という構成になっている。
 そしてそれぞれの章に関連のある項目が続き、さらにその項目の下にさまざまな職業が数え切れないほど多く列記してある。その中には筆者が聞いたこともない仕事もあった。

 第12章に続いて100ページ以上をさいて、特別編として、「これからの一次産業」、「環境」、「日本の伝統工芸」、「医療・介護」、「IT」の分野に分けて、それぞれの分野の当事者、専門家などとの対談などでそれらの職業の課題等を話し合っているなど硬派な内容だ。

 最初に書名を見たときは、13歳が自分の将来の仕事を探すための本かと思ったが、開いてみると、職業の内容も相当に詳細にわたっており、どうやったらなれるのか、その仕事はどういうことをするのかなど、筆者が見る限り、親が子どもと将来のことを話し合うときのガイドブックとして役に立つ。巻末には職業名の索引もある。まさに現代社会の職業百科事典ともいえる。
中扉や文中にちりばめられたはまのゆかの独特のタッチのイラストも品があってとてもよい。

 ちなみに、筆者の職業(ヒミツ)も掲載されていて、内容は概ね妥当である。しかし著者は内実をそのまま書いただけであろうが、ジェンダー差別に関わるような書き方のところもあった。これは著者のせいではなく、いまの社会の実情だ。

 大人がいまの自分の職業の箇所を読んで見るのも一興だ。世の中の仕組みや実情を知る上で、非常に面白い読み物である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?