4.0から1を作る楽しみ
制作の裏話
アイデアの引き出しから
少し複雑な生い立ちや家族関係の影響もあってか、私の描く絵には、一生懸命だけどちょっと不器用な動物が多く登場します。この動物たちを絵本に出来ないかと考えた時、パッと、サーカスをする動物たちの姿が浮かびました。
アイデアの引き出しの中からあれこれネタを引っ張り出し、ぐるぐるかき混ぜていると、思いがけない化学反応が起こる事があります。
そうだ、刺繍と水彩で分けてみたらどうだろうか。現実を水彩で、ファンタジーを刺繍にしたら、刺繍の魔法が際立つんじゃないだろうか!
これを閃いた瞬間、ゾクゾクっとしました。で、次の瞬間、不安が襲ってきました。水彩で絵を描いたことが無かったからです。正確には、高校の美術以降、30年以上描いたことが無かったのです。
水彩用に揃えた道具
一から水彩道具を揃えました。知り合いのイラストレーターに聞いてみたり、自分でも何種類か買って試行錯誤。とりあえず行き着いたのがこれ。
ビフアールは水張りしなくてもヨレ難いし、コスパもいい使い勝手の良い紙だと思います。
刺繍について
普段はアップリケと刺繡を組み合わせて絵を描く事が多いのですが、ストーリーの展開上、すべて刺繍しなければならず、刺繍部分だけで9か月もかかりました。
ちなみに、水彩部分は3週間ほど。
刺繍の撮影、水彩のスキャン、Photoshopでの合成、レタッチ加工に2週間、全部で10ケ月近くかかってしまいました。
完成本
「たいくつなにちようび」
絵・文:MICAO
撮影・デザイン:MICAO
発売日:3/18/2021
出版社:理論社
編集者:郷内厚子
印 刷:光陽メディア
発売日:3/18/2021
ISBN-10 : 4652204191
編集者コメント
水彩と刺繡をPhotoshop上でコラージュ、絵本になって初めて一枚の絵に。
前後の見返し
一般的に本は、表紙、見返しを経て本文につながります。見返しとは、表、裏表紙と本文を繋ぐ一枚の厚紙で、普通ここは、色無地だったり模様が入っていたりします。
この見返しも物語の一部にしてもいいとのこと。
ここに物語のプロローグ、エピローグを入れ、現実の世界とファンタジーの世界との流れが自然にリンクするよう工夫しました。
サーカスをみんなが見に行くのはどういう状況なのか。「サーカスがやって来た!」ではありきたりすぎるので、最後まで悩んでいた導入部分がこれで解決しました。
データ化とブックデザイン
この絵本の絵と文以外の、撮影、レイアウト、紙、フォントといったブックデザイン関係も少し関わらせて頂きました。
刺繍という特殊な素材を印刷物するにはちょっとしたクセを理解しておく必要があります。
基本、物撮りの撮影でデータを作るのが望ましい。糸の質感が活きます。
刺繍のスキャンはNG。裏糸まで必要以上に拾ってしまうから。
写真印刷なので、細部の再現性において、使える紙が限られます。質感のある紙はインクが滲んで刺繍の面が潰れます。
艶のある糸やビーズなどの光りもののライティングには注意が必要。印刷時に色が飛びます。野外だと、晴天の日より、少し薄曇りの日が望ましい。
水彩画はスキャンが綺麗
表紙は紙に直接刺繍し、スキャン後、Photoshopで影を付けました。表紙だけ、告知画像として600dpi程の高解像度が必要だったからです。
出力環境と紙
月と太陽
余談ですが、絵本やイラストレーションでは、表に出ない舞台設定、時刻なども設計しておかねばなりません。
夕方に出る満月は東の空
満月の出ている方向、つまり、木の向こう側が東側なので、手前は西側。
人物の影の向きと月の方向から、サーカスは午後から始まって夕方にかけて終わっていることが分かる。
ではでは、これまで。是非絵本を手に取って読んでみて下さいね。