詩 悪魔祓い
それがぼくを救ってくれるのなら望んで差し出してやるさ。
朝日は転がり落ちて星空が降ってくる、雲が矢庭に霞みだし、雷の音がドップラー速度を伴って駆けていく、日々ってそんな感じの忙しなさをしている、という一幕の説明だけが挟まれる。
痛みを忘れるほどの快楽を忘れるほどの疲労を忘れるほどの快晴を忘れるほどの雪解けを忘れるほどの愛情を忘れるほどの疑念を忘れるほどの希望を忘れるほどの窮地を忘れるほどの虚無を忘れるほどの空腹を忘れるほどの自我を忘れるほどの流転。
目がまわっていると知覚しているうちが華で、気づけば今朝嚥下したものを嘔吐しないでは息の根が止まる。
ここまで、望んだ通りの生き方だ。それが十年来で詰め込まれた親切と反発と地獄と理想郷のごった返しによる想像の外骨格だ。ぼくはうまれてこの方口にしてきたものと手にした感覚から、こうなるしかない、こうなるほかにない、と思い込んでいる節がある。
狭く底の浅い器でぜんぶを飲み下そうとして、五感を酷使している。そのさなかにまろびでる本能にこう言ってやる。
きみがぼくを救ってくれるなら望んで差し出そう。けれどきみは、自分以外の誰かを燃やして光っているだけでしかない。ならばきみの大好きなぼくのからだに火を点けてやる。
こげついたきみを炭化した舌で嚥下する。そしてすぐに嘔吐する。味はすぐに忘れて、まっ茶色に混濁したヘドロ、それによって十字架の質量は増してゆく。裁きがあるのならこれまでの一生そのものが裁きだが、一番マシな選択肢としてこの道を選んだのは、紛れもなくこのぼくである。