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別冊・旧東海道を歩いてみた。 旅のはじまりから、終えてみて(感想)

東海道を歩くきっかけ

私が東海道を歩いてみようと思ったのは、職場の再雇用の男性が定年後の楽しみとして、「東海道を歩くツアー」に参加しており、その話をよく聞いていたからでした。元々、歩くことは好き、というか、抵抗感のない性分だったし、ハイキングやトレッキングを楽しんでいたこともあって、話を聞いているうちに興味がわき、様々なサイトを見て「東海道を歩くシミュレーション」をしていました。

ただ、「東海道を歩く」旅をしている人は、ほとんどが東京発が多く(そりゃ、そっちがメジャーですし)、京都発の情報が少なかったのが難点でした。そんななか、あるサイトを見つけ、かなり熱中して一気読みしたのを覚えています。そのサイトは東海道中を歩きながら、ホテルの中でも読み返していたほどで、今でもブックマークしたままです。

当時私はモヤモヤとした何かを抱えていました。別に病んでいたわけじゃありません。私は子供の頃から理屈っぽく悩みやすく、そして頑固でした。そのくせ冒険が好きで自由闊達さを求めており、明るく快活な人に憧れていました。他人からも、家庭環境にその原因があるのではと指摘されたことがありました。私自身、両親からは過保護に育てられ、両親の価値観を強く受け継いだと自覚しています。

そんなこんなで、以前、心理カウンセラーをやっている知人に言われたことがありました。

「自分と正反対の人に憧れているようだけど、それは自分の中に、そういう要素があるってことだよ」

そうか。そういうことなのか。妙に納得しました。そして、いつもの「考えすぎる癖」が発動し、ぶつぶつ考えていましたが、大体こんなことをぐるぐる考えていたようです。

確かに、私はまだまだ途上ではあるけど、子供の頃に比べるとずっとましになったし、人とのコミュニケーションも上手になった。少し偏屈なところもあるかもしれないけど、感情は穏やかになってきたし、今まで振り返って概ね幸せな人生だったようだ。でも、もう一皮剥けられるのなら、剥けた自分に出会ってみたい。冒険の旅に出てみよう! 道中はいろいろ考えるのではなく、風を感じ、空気を胸いっぱいに吸い、体の感覚を大事にしてみよう。

考えすぎる癖を持つ性格は厄介です。実に厄介です。いろんな考えが浮かび、そして一周して元に戻ってきます。思考がやかましく、落ち着きません。

ええい! 考えても仕方ない! とにかく旅に出るぞ! 出るんだ!

そう決めたのが、2020年9月のことでした。
社会人になり、何年か経って両親の猛反対を押し切って一人暮らしを始めましたが、その住居ですら両親の納得のいくところにしか住まわせてもらえませんでした。親の庇護下から抜け出したい、自分自身も変わりたい、というのが、大きな原動力になりました。

ということで、実は東海道の旅に出たことは両親には内緒なのです(笑)踏破した現在も知らせていません。これは、ささやかな反抗なのです。

出発する勇気

とはいえ、旅に出るのを決めてから、出発するのに何度延期したことか分かりません。準備するだけして、いざ出発となると足、いや、心がすくむのです。

やはり「東海道492km」を意識すると、どうしても旅に出る勇気が出ない。なんだかんだ自分に言い訳して、2度出発を見送りました。前夜は気合が入っているのに、当日の朝になって、急に気持ちが萎えてしまったのです。

3回目、やっと出発できました。家から出るのも一苦労。今回はなぜ出発できたのかというと、もう草津に宿を予約していたからでした。こうなったら、なにがなんでも出発しないわけにはいかない。せっかちな性分なので、朝はのんびりしてその日じゅうにチェックインできればいいや、という考えは持っておらず、「早朝出発、早めにチェックイン」しか頭にありませんでした。(この考えは東海道中ずっと引き継がれましたが…)とりあえず、「東京まで行けなくてもいい、今回は草津まで行けたら合格」という目標に切り替えました。巷でいう「60点合格理論」ですね(笑)

今から思えば、そんなに生真面目に考えなくても、どうせ京都から大津までは○○キロ。ここまで行ってリタイアしてもいいんです。既に草津に宿を取っていたけど、大津から草津までJRで移動して泊まって帰ってもいいんです。気楽に考えれば良かったんです。ゴールしなければと、自分にプレッシャーをかける必要はなかったんです

妙な気負いと、妙なテンションで京都三条大橋を早朝出発したのを覚えています。その後の道中のことは、「旧東海道を歩いてみた。」シリーズのとおりです。

すれ違ったウォーカーたち

東海道は街道の中でもメジャーなので、土日祝はウォーカーとのすれ違いもたくさんありました。やはり江戸方からの出発の方が多かったように思います。時折この先の情報交換をしましたが、鈴鹿峠を前にしたウォーカーの方には、かなり脅しをかけてしまいました(笑)でも、実際は箱根峠のほうがキツかったように思いますし、菊川あたりの石畳のハードさに比べるとマシな方だったかもしれません。

なお、年齢層は20代と思われる人はほとんどおらず、30代と思われる方すら少なかったように思います。(時期的に学生さんが歩けるような時期でなかったという可能性もありますが)40代かなと思われる方とはちょこちょこお会いしたのと、やはり60代以降、定年後の比較的時間に余裕のある方が多いように見受けられました。60代の方、歩けるんですよ! ぜひ、歩いてください! 無茶をしなければ、必ずゴールできます。

あと、男女比でいうと、これは比べるまでもなく男性圧勝です。女性のウォーカーもいましたが、「東京~京都間を通しで」ではなく、スポット的に歩いていたようでした。いずれ、続きを歩きたいけど、少し時間を空けるということなのかもしれません。そういうのもよろしいと思います。

私は有休を使って平日に歩いたこともありましたが、平日はあまりウォーカーの方を見かけませんでした。日曜や平日泊だとホテル代が安くなるので、連休と組み合わせたこともありました。

街道沿いの方たち、お店の人たち

東海道ウォーカーはその身なりで一目で分かるので、近隣にお住まいの方からは、時折「こんにちは」とお声をかけていただきました。ありがとうございます! すごく元気が出ていました。これは本当なんです、疲れていても、なんだかエールをいただいたようで急に元気が湧いてきました。「街道を守る会」なるものの標識が出ていて、街道が綺麗に整備されているのはこの方々のおかげなんだなぁ、とか、松並木を見るたびに「ありがたい」と感激したりと、感情が揺さぶられることが多々ありました。

また、小学生からのかわいらしい「こんにちは」攻撃もありました。特に静岡県! 学校で教わっているのでしょうか。可愛らしいなあと思うのと同時に、こちらも返事するのが大変でした。でも、マスクの下で精いっぱい笑顔で「こんにちは」と返すと、不思議と元気が出てきました。そう、歩いている間も「疲れたー」という顔ではなく、時折笑顔になれたのも、踏破に至った要素のひとつかもしれません。

お店に入ったとき、ウォーカーに慣れたお茶屋さんや食堂だと時折ねぎらいの言葉をかけてくださる方もいました。「頑張ってね!」「今日はどちらから? どこまで行くの?」等。出発のときにいくつか飴をいただいたこともありました。人々からの優しさに包まれ、またパワーゲージが溜まったような気分でした。

ホテルの方だと、あからさまにはおっしゃらないですが、「遠いところから、さぞかしお疲れのことでしょう。ゆっくり温まってくださいませ」というようなフレーズを何度もいただきました。出張のときもビジネスホテルは利用していましたが、当たり前のようなフレーズも、東海道を歩いているといっそう身に染みます。また、「ゆっくり温まってくださいませ」は、疲れた体を癒してくださいね、と特別に付け加えられたように思え、とても嬉しくなったものです。

この旅で私は、「考えすぎる癖」「いつも思考がやかましい」という悩みがすっかり消え、嬉しい・楽しい・感謝といったプラスの感情を、素直に受け取ることができるようになった、と胸を張って言えます。以前は、考えすぎる癖については、「何も考えないよりいい」と思っていましたが、考えすぎるとマイナスの方向に思考が振れてしまうことが多々あります。特に肉体的に疲れているときはそうです。だからこそ、無になる。とにかく今感じているものをそのまま受け取ること。歩き旅を通して身につけられた、新しい特技になりました

そして現在

私のマインドは大きく変わったと思います。歩くことのできる喜び、東海道があることの喜び、人々と出会えたことの喜びなどに満ち溢れ、視野がぱっと開けたような感覚でした。
私が自覚している変化は、次の5点です。

(1)穏やかな気質になった。
(2)否定からではなく、「そういうこともあるのかも」と、まず受け止められるようになった。
(3)やりきった、という自信がついた。
(4)悩み癖が消滅した。
(5)人や物に対し、丁寧に接するようになった。

もちろん、ここまで劇的に変わらない人もいると思います。でも、もしかしたら気が付いていないだけで、実は何かしら精神面で変化があるかもしれませんよ。もし、変化を感じたいなら、できるだけ短期間で踏破するのがいいのかもしれません。長期間かけてしまうと、やはり印象が薄れてきてしまいますので。

また、上の5点は急にそうなった、のではなく、踏破後も徐々にマインドがこのように変化していったなと思います。
特に(2)(4)は自分の中で大きな嬉しい変化でした。私は子供の頃から物事をまず否定的に見る癖がついていたのですが、肯定的とまでいかなくても、様々な事象に対して、まず「そういうこともあり得るかも」と思うようになったのが驚きでした。また、悩み癖についても、旅を通して「案外適当にやっても物事は上手くいく」ことを学びましたし、悩んでも前に進まないことは身をもって体験したので、これは自然とあまり考えない方に変わっていきました。

世の中、悩むより、うま~く折り合いをつけてやっていくのが、賢いやり方ですからね(笑)

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いかがだったでしょうか?
この東海道の旅は、思わぬ副産物を旅人みっちぇるに与えてくれました。旅をしてよかったなぁ、と心から思っています。

もし、今後街道の旅を始めてみたいという方や、街道の旅はできないけど旅をした気分になれたという方がいらっしゃったら、とても嬉しいです。

みっちぇる拝

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