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MIC×グラッドキューブ_1/3|データアナリシスカンパニーへの道のり
■はじめに
こんにちは、ベンチャーキャピタルMICの有賀です。モバイル・インターネットキャピタル株式会社(以下MIC)は、1999年の創業時からデジタルテック領域において、リード投資を基本とし、シリーズAを中心とするオールステージにてスタートアップへ投資支援活動を行う独立系のベンチャーキャピタルです。投資先のスタートアップへの支援の一環として、事業会社との事業連携等オープンイノベーションにも注力中です。
本記事は、弊社が毎週火曜日に配信している公式Podcast「起業家のキモチ」を文字で読むことができる「読むPodcastシリーズ」です。投資先の起業家へのインタビューを通じて、事業内容や起業までのストーリー、今後の展開についてお聞きしています。聴きドコロをまとめていますので、空き時間でさくっと読みたい方にお勧めです✨
今回お迎えするゲストは、株式会社グラッドキューブの代表取締役CEO 金島 弘樹さん、そして専務取締役 CIRO/コーポレート本部 本部長 財部 友希さんです。金島代表の起業のきっかけ、そしてグラッドキューブの黎明期にあった忘れられない受賞の舞台裏とは?3本立ての1本目となる本記事では、起業家金島さんにフォーカスを当てて、起業の経緯に迫ります。
※本記事は、2021年と2022年にご出演いただいたPodcastの音源を記事として再編集しお届けしています
1.グラッドキューブの事業概要とSaaS事業の成長
MIC 有賀: 本日は株式会社グラッドキューブより代表取締役CEO 金島 弘樹さん、そして取締役COO IRO (収録2022年当時の役職名)の財部 友希さんをゲストにお迎えしております。金島さん、財部さん、よろしくお願いいたします。
グラッドキューブ 金島さん: 株式会社グラッドキューブ 代表取締役CEO 金島 弘樹と申します。今回は起業家の気持ちというテーマなので、これを聞いていらっしゃる様々な若手起業家、スタートアップの方々もいらっしゃると思います。私が分かる範囲で、あるいはいろんな経験を通じてお伝えしたいと思います。本音でぶつかりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
グラッドキューブ 財部さん:株式会社グラッドキューブ取締役COO兼IROの財部 友希です。よろしくお願いいたします。
MIC 有賀: ありがとうございます。では改めて、御社の紹介をお願いできますでしょうか。
グラッドキューブ 金島さん: 当社はSaaS事業を行っており、「SiTest(サイテスト)」というサイトをテストする事業を展開しています。現在、アジア全体で60万以上のサイトに導入いただいています。フォーム解析やABテストをブラウザ上で自動で行えるほか、ユーザーのスクロールやタップの解析など、様々な分析機能を提供しています。
これらの解析ツールを通じて、広告とどのようにシナジーを効かせてお客様の売上を上げていくか、コスト低減させていくかというのが、このSaaS事業とインターネット広告事業を合わせたものが「マーケティングソリューション事業」です。
具体的には、PCならスクロールの解析、スマホなら右手左手でのタップ、あるいはダブルタップがどうだったかなど、細かいユーザー行動を分析しながら、広告とどのようにシナジーを効かせてお客様の売上を上げていくか、コスト低減させていくかを追求しています。
また、 2016年にスポーツAI予想解析メディアのベータ版を作り、スポーツのSP、そして人工知能のAI、アナライズまたはアーティクルという意味でのA、これらを合わせて「SPAIA(スパイア)」という名前で、スポーツデータの統計およびAIでの解析事業を展開しています。
現在はスポーツ産業がコロナ禍で縮小している面もあるので、公営ギャンブル、特に「SPAIA競馬」という名前で競馬に注力しています。
MIC 有賀: 3本柱として、インターネット広告事業、SiTestという分析ツール、そしてSPAIAを軸にしたメディア事業を展開されているということですね。
2.創業者・金島氏の原点と起業への道
MIC 有賀: 金島さん自身が広告業界の出身ではないというのを今回初めて知って驚いたのですが、以前は金融業界にいらっしゃったんですよね。起業に至るまでの経緯を詳しく教えていただけますか?
グラッドキューブ 金島さん: はい、私は消費者金融の会社で数年働いていました。しかし、ある日大きな転機が訪れました。交通事故に遭い、車椅子の生活を余儀なくされたんです。その時、将来への不安が押し寄せてきました。体が不自由な状態でも給料を稼ぐ方法を必死に考え、インターネットの可能性に目をつけました。
最初は生きていくことが精一杯で、壮大なビジョンや理念はありませんでした。マズローの5段階欲求でいえば、生命の欲求を満たすことが最優先でした。ただ、目と指しか動かせない状態で、どうやって給料を稼ごうかと考えたときに、インターネットの可能性を感じたんです。
消費者金融時代の経験から、お金を貸して「ありがとうございます」と言われることに違和感を覚えていました。もっと心から喜べる、人を幸せにできる仕事がしたいと思ったんです。そこから、「喜びをカタチにする」という理念が生まれ、グラッドキューブの創業につながっていきました。
3.グラッドキューブの強み:認定資格と独自の戦略
MIC 有賀: 御社は広告代理店として運用している担当者の方々が全員認定資格者であることをホームページでも強みとして打ち出していらっしゃいますね。リスティング広告に限らず、SNSや動画広告制作も行っている競合が多い中で、他社と比べての御社ならではの強みはどこにあるとお考えですか?
グラッドキューブ 金島さん: 2007年にインターネット広告コンサルティングをしたのが、おそらく日本で一番早かったと思います。その後、2011年から本格的に代理店事業に参入しました。サイバーエージェントが代理店を始めてから11年経った後に私たちが始めたんですが、従来の業界の常識とは異なるアプローチを取りました。
まず、料金体系を大きく変更したんです。当時の代理店は10%から20%という手数料でビジネスを行っていましたが、私たちは一律5万円という分かりやすい金額設定に変更しました。これは業界の常識を覆す戦略でした。
次に、資格取得に力を入れました。Googleとオーバーチュア(現在のYahoo!スポンサードサーチ)の資格を全てコンプリートしました。特にYahoo!広告は、Googleよりも歴史が長く、Googleはそれを参考に広告事業を伸ばしていったという経緯があります。これらの資格は当時はあまり有名ではなく、全て英語で難易度も高かったのですが、何度も挑戦して取得しました。
この戦略は、消費者金融時代に学んだ「相手に強いと思わせる」という心理戦術の応用です。資格を取得することで、一瞬で強さを印象付けることができるんです。野球チームで言えば、足並みが揃っていて声も大きい強豪校のような印象を与えることができます。
これらの取り組みにより、後にGoogleの賞を受賞するなど、業界での地位を確立していきました。
グラッドキューブ 財部さん: 私たちの最大の強みは、広告代理店業務とSiTestという自社開発の解析ツールを組み合わせて提供できることです。金島が広告代理店を始めた後、ランディングページの重要性に着目し、サイト解析ツールの開発を始めました。
当時、海外製の解析ツールはいくつかありましたが、使い勝手が良くなかったり、広告との連動がうまくできなかったりという課題がありました。そこで、私たちは広告やマーケティングの視点から、使いやすく効果的な解析ツールを自社開発しました。
SiTestは、ユーザーがウェブサイトのどこを見ているか、どこで止まっているかなどを可視化します。例えば、ヒートマップ機能で、ユーザーがページのどの部分に注目しているかを赤く表示したり、入力フォームの分析、ABテストなども行えます。さらに、スクロール率やスワイプ、ピンチインやピンチアウトなどの動作まで分析できます。
これにより、広告からランディングページまでの一貫したユーザー体験の最適化が可能になります。例えば、ユーザーの興味度合いに応じて定義付けを行い、リターゲティング広告を効果的に配信することもできます。
このように、広告運用と高度な解析ツールを組み合わせて提供できることが、他社にはない私たちの強みです。お客様のビジネス全体を見据えたマーケティングソリューションを提供できるのです。
実際に、広告を任せていただいているお客様にはSiTestも使っていただき、大きな成果を出しています。この組み合わせこそが、私たちの最大の強みだと考えています。
グラッドキューブ 金島さん: 私は特に数字が大好きなんです。数字は嘘をつかないですからね。確率は大体当たると思うんです。実は自分のことをあまり信用していなくて、むしろ数字を見て信用するタイプなんです。
直感も重要ですが、数字も同様に重要だと考えています。そのため、この考え方を社内の文化として定着させようとしています。統計学を活用しながら、お客様の悩みを聞き、解決策を提案しています。
SiTestは人間の目線を追跡するツールです。ユーザーがウェブサイトやスマホのどこを見ているか、どこに興味があるかを分析します。ユーザーが立ち止まって考えている部分は、ヒートマップ機能で赤く表示されます。これは、その部分に注目しているか、あるいは分かりにくいと感じているかもしれません。
このようなデータを基に、ウェブサイトの改善点を見つけ出し、ユーザーがより理解しやすく、スムーズに行動できるようにします。Googleも昔から言っていますが、広告を見てから3回以上ユーザーにアクションを起こさせると離脱率が上がります。理想的には、ウェブサイトを見る、ショッピングカートを押す、購入ボタンを押すという3段階くらいが最適なんです。
私たちは、このようなデータ分析と改善のサイクルを通じて、お客様のビジネス成果を最大化することを目指しています。数字とデータを重視するこのアプローチが、グラッドキューブの強みの一つだと考えています。
4.Google Excellent Performer Award受賞の舞台裏
MIC 有賀: 2007年に御社が創業してから4年後、しかも社員がわずか3名という時期に、2011年にGoogleのExcellent Performer Awardで最優秀賞を受賞されていますね。国内でまだ認知度が低かった時期に、いち早くノミネートを予測し、実現された裏にどんなストーリーがあったのか、教えてください。
グラッドキューブ 金島さん: これは、ようやく10年以上経って話せるようになった秘話です。それまでは私の戦略の秘密だったので、明かせませんでした。
まず、当時は日本にほとんど情報がありませんでした。そこで、アメリカのウェブサイトを必死に調べました。翻訳ツールもない状態で、英語が得意というわけでもなかったのですが、コツコツと情報を集めました。その過程で、Google Excellent Performer Awardがアメリカで開始されたという情報を見つけたんです。
さらに調べると、何ヶ月後かに日本でも開催されるという情報が見つかりました。これは絶対に誰も知らないだろうと思いました。ところが、実際にはいくつかの大手企業も参加していたんです。
しかし、私は大手企業も最初の1回目は本気を出さないだろうと予測しました。そこで、一発目に賞を取ろうと決意したんです。審査基準は、3ヶ月間のクォーターにおける新規獲得顧客数と広告の取扱金額でした。大手企業は大きな案件を1件獲得するだけでは評価されず、たくさんの顧客を獲得し、多くの広告費を扱う必要がありました。
そこで私は、その3ヶ月間「広告手数料を0円にする」という禁じ手を使いました。会社が潰れるか潰れないかというギリギリの戦略でした。社員も本当に心配していましたし、私自身も給料をもらっていない時期でした。でも、絶対に誰もやらないだろうという確信がありました。
結果、最初はGoogleから「グラッドキューブは最優秀賞ではない」という連絡が来たんです。しかし、私は絶対にあり得ないと思い、Googleに電話をかけ直しました。そんなことをする人も珍しいと思いますが、納得がいかなかったんです。15分後くらいにGoogleから電話がかかってきて「申し訳ありませんでした。計算し直したところ、グラッドキューブが最優秀賞でした。他の企業は全て繰り下げになります」という連絡がありました。
この経験のポイントは2つあります。1つは、3ヶ月間無料という禁じ手を使った勇気。もう1つは、結果に納得できないときは確認する重要性です。最優秀賞だと確信していたからこそ、Googleに問い合わせることができました。一筋縄では諦めない、無理矢理でも取りに行く、ということをやっていました。
5.データアナリシスカンパニーとしての矜持
グラッドキューブ 金島さん:今ではVC(ベンチャーキャピタル)にも出資いただいて、事業も成長し、海外にも展開しています。ただ、私は今でも社員には「我々は単なる代理店ではない」と言っています。「データアナリシスカンパニーだと思いなさい」と。なぜなら、我々の会社は広告事業でもSiTestを使ってデータ分析をしていますし、SPAIAというスポーツメディアでも選手それぞれのデータをAIで分析・予想しています。競馬も同様にデータからAIで予想して的中させています。
つまり、様々な分野でデータをAIや統計学を活用して分析し、改善してお客様にソリューションを提供しているんです。だから、単に「代理店」と言われたら怒れと。「我々はデータアナリシスカンパニーなんだ」と思うよう社員には言っています。
財部との出会いで、信頼できるパートナーができたことで、新しい経営戦略とかマーケティングとか、既存の社員の直接的な指導というのはできる時間が増えました。最初は一緒に行動することが多かったんですけど、役割分担がその頃からだいぶ整理されてきたなという風には思います。
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