今から飲みに行くぞ!
深夜の撮影を終えてロケバスの中で眠り込んでしまった。
「懐かしいな、このバス。よく乗ったなあ」
声が聞こえる。
目を開けると、川谷拓三さんがいた。
「あ、先輩、おはようございます」
「あらたまった挨拶はいいよ、みぶちゃん。朝までやってる店があるから、飲みに行こうか」
「もちろん、喜んで!」
川谷さんとは、同じ年頃に同じ映画を観たのがきっかけで役者を目指した縁があり特別に親しみを感じていた。
「みぶさん、起きてください!」
声をかけられて目を覚ます。
ADさんがぼくの体を揺さぶっていた。
バスは東映京都撮影所に到着している。
川谷先輩も、他の役者さんも残っていない。
というか、考えてみると川谷拓三さんは数年前に亡くなっていた。
このバスは、東映の川谷さんが数えきれないくらい乗車したバスなのだ。
「今から一緒に飲みたかったなぁ」
寂しくバスを降りる。