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忘れない本郷直樹さん

その日、いきなりドアチャイムが、鳴る。
外にいたのは車椅子の本郷直樹さんだった。
「みぶくん、今日が何の日か覚えてる?」
8月2日。
「あ!」
「そう、1972年、ぼくらが初めて握手した日さ」
当時、ぼくは高校生になったばかり、本郷さんはレコード大賞新人賞を受賞したばかりの売れっ子。
イベント出演で近所に来た時、初めてお会いし、握手してサインを貰ったのだ。
「覚えててくれたんですか?」
「当たり前じゃないか」
本郷さんが東映京都で時代劇に出演されてた頃、そんな昔話を語り合ったことがあった。
「50年ぶりに、もう一度握手だ」
いつもの大きな声にうながされ、ぎゅっと手を握る。
50年前と同じ力強い手のひら。
「高校生に戻ったみたいです」
「ぼくも、あの頃に戻った気がするよ」
玄関先でそのまま別れる。
同時に、電話が鳴った。
作詞家の結城忍先生からだ。
「みぶさんがいつも気にかけてくれた本郷直樹が今日亡くなりました」

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