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羊毛本来の美しさを そのまま

私たちは、世界に1,000種と言われる多様な羊の毛をそのままお届けすることを目指し、手紡ぎ・手編みという職人の手仕事で、冬をあたためる衣服を作っています。羊毛本来の美しさと性質を最大限活かすため、染色や漂白は行いませんし、装飾がないシンプルなデザインの製品です。

大型の機械や工場での生産が始まるずっと前に、古くから行われてきた手紡ぎ・手編みという手法。手仕事が主流だった時代、羊と人間は同じ場所で共に暮らしていました。利用する人間と利用される羊いう関係を超えて、生きものの尊厳や愛情がより強くあったことと想像します。現代よりも羊と人間の、生きものとしての関わりが深かったことでしょう。

私たちは、1万年もの長い間、人間の暮らしが、羊という生きものに支えられてきたことを、実感できるものを作りたいと思っています。そしてこれが、人間と他の生きものの距離を縮め、人間もまた生きものであることに想い至る過程でありたいと願います。

塗師の赤木明登さんのご著書に、ヨーガン・レールさんのこんな言葉があります。

「こうやって、自然の森に来てみると、自分が作った森よりもずっと美しいので、少しがっかりもするんです。人間の作ったものは、私の作ったものも含めて、やはりあまりヨイモノじゃありません」

『美しいもの』赤木明登(著)小泉佳春(写真)/新潮社

レールさんは、1970年代からヨーガンレールとして、綿・麻・絹・毛などの自然素材を用いて、衣服をはじめとする生活用品を作られてきた方。私にとって憧れのブランドの一つです。レールさんが作られたものに惚れぼれし、畏敬の念を感じてきましたが、ご本人は「あまりヨイモノではない」とおっしゃられた。このことの深さに、ものを作る一人として、途方に暮れるほど大きな課題を感じます。

自然の羊毛と向き合う時、羊毛の本来の美しさに対して、私は何ができるのだろうと立ちすくむことがあります。この毛はどのような糸になり、どのような編み目になった時に、一番美しくなるのだろう。羊の毛は千種万様。羊毛にどのようなヨリがかかると毛質が活きるのか? その時、糸はどのくらいの太さなのか? どんな編み目が一番美しいのか? 毛の性質は、羊によって全く違うので、一つひとつが手探り。試行錯誤の連続です。

どこまでできるだろう。私たちは、羊毛本来の美しさをそのまま届けることを目指します。

糸車で羊毛を紡ぐ。ニュージーランド原産のペレンデール種です。
紡いだ糸を棒編みで。こちらはイギリス原産のシェットランド種。

ところで…
私はもともと、大学で生命科学を専攻し、科学館に勤めるなどして、生きもの(自然)の姿を伝える、制作・コミュニケーションの仕事を15年ほどしてきました。この道を選んだのは、群馬県の田舎で生まれ育ち、自然の中で過ごすうちに生きものが大好きになったから。そして、子どもの頃に顕微鏡でのぞいた自然の世界に息を飲んだからでした。美しさの原点を見たような気持ちがずっと残っています。私は、生きものという自然を、生きものとしての人間を、深く実感したいと、いつも思っています。

羊毛製品を通して、この思いを形にしていきます。

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