生きる術
私は幼少期から人間が好きだった。
周囲の人間と積極的に親交を深め、親よりも年齢が上の世代にも物怖じすることはなかった。
そんな性格が仇となり、時に面倒な揉め事に巻き込まれるなんて苦い経験も幾度とあったのだが、いわゆる“誰とでも仲良くなれる”自分を誇りに感じていた。
人見知りや引っ込み思案な同級生を目の当たりにすると、なんだか勿体無い人だなぁと幼いながらに凝り固まった価値観を持ち合わせていたのだ。
あれから月日は流れ、今年32歳を迎える私がいる。
今年から部署異動となり新たな環境で心新たに仕事に励んでいる。
現在の私はというと冒頭の面影はほとんど失われつつある。
仕事場では業務以外の会話、すなわち私語を自ら発することはほぼ無く、同僚などから質問されない限りプライベートを語ることは無いに等しい。
休憩も1人で過ごし、定時になればさっさとデスクを片して駐車場へと急ぐ。
そんな日常を送る人間になっていた。
言うなれば、“立ち入らないし、立ち入らせないスタンス”である。
確認や報告、相談といった仕事上の必要なコミュニケーションは積極的に行なっているがそれ以上の関わりは意識的に避けているのだ。
これにより自分と他人の領域に境界線ができ、最低限の人間関係によって一定の距離感を保てる。
余計なストレスを感じることもなくなり、仲良くなりすぎないことで私情を挟むことがなく、感情をコントロールしやすくなった気がしている。
私のこの立ち振る舞いには賛否両論あるだろうが、恐らくそれは三十路を越えた私が身に付けた“生きる術”と言えるだろう。