90年代におけるBRUTAL DEATH METALの発生と歴史(前編)
80年代初頭から沸き起こったTHRASH METALカルチャーと関連してDEATH METALは発生し現在まで様々なベクトルを見せながら発展してきた。THRASH TO DEATHという言葉があるように過激さを増してDEATH METALへと変貌したバンドもあれば、POSSESSEDやDEATHのようにTHRASH METALと同時多発的に発生した例もあり一概にTHRASH METALとDEATH METALの関係性を語れるわけではない。
これはDEATH METALのサブジャンルも同様に、所謂OLDSCHOOL DEATHMETALとBRUTAL DEATHMETALが一方通行的な関係性でないと言える。
BRUTAL DEATHMETALもまたOLDSCHOOL DEATHMETALとタイムラグがありながらも時を同じくして発展してきた。
本記事ではBRUTAL DEATHMETALをDEATHMETALからTHRASH METALの要素が抜けた物と定義した前提で90年代におけるBRUTAL DEATHMETALの発生と進化の歴史をレビュー付きで紐解いていきたい。
1:SUFFOCATION/HUMAN WASTE(91)
NYはロングアイランド(重要!)出身SUFFOCATIONのデビューEP。
曲によってはTHRASH METALの香りがするものがあるがブレイクやミドルパート等は後のBRUTAL DEATHMETALの雛型になったと思われる。
地元の連れであるINTERNAL BLEEDINGやPYREXIAも活動開始時期は大差ないがSUFFOCATIONがいち早く正式音源でデビューを飾ったという点でパイオニアと言えるだろう。
2:CANNIBAL CORPSE/TOMB OF THE MUTILATED(92)
フロリダに活動拠点を置きつつも出身はNYはバッファローのCANNIBAL CORPSEの3枚目の作品。
それ以前の作品が持っていたTHRASH METALの香りは完全に抜けきり、VO:CHRIS BURNSのスタイルも益々激化したガチュラルを用いてたこれはもはやBRUTAL DEATHMETALと言えるだろう。
またI CUM BLOODでブラストビートでストップ&ゴーを用いるあたりBRUTAL DEATHMETALが持つトリッキーさをいち早く取り入れていたように感じる。
3:MALEVOLENT CREATION/RETRIBUTION(92)
CANNIBAL CORPSEと同様にフロリダに拠点を置きつつもNYはバッファロー出身、ハードコアヘッズからの支持も熱いMALEVOLENT CREATIONの2枚目のアルバム。
こちらのアルバムも先述のようにブレイクとミドルパート等が特徴的でBRUTAL DEATHMETALの雛型と言える。
前作ではフロリダ勢の本拠地MORRISOUND RECORDINGSでのアルバム録りだったが、本作からは意図的にそこから脱したこともありOLDSCHOOL DEATHMETALとは異なるスタイルを模索してたことが読み取れる。
4:PYREXIA/SERMON OF MOCKERY(93)
NYはロンアイランド(重要!)出身PYREXIAのデビュー作。超最初期のVO:WALLECE MILTONはDEMO時代のINTERNAL BLEEDINGでもVOを勤めており、本作SERMON OF MOCKERYでもロゴデザインで製作に関わっている。
アルバム全体を通してブラストとミドルパートが占める曲構成は93年当時では革新的だったのではないかと推測できる。
5:DYING FETUS/BATHE IN ENTRAILS(DEMO93)
今やDEATHMETAL最前線に位置するDYING FETUSの一番初めにリリースされたDEMO音源。
曲からリスペクトが伝わってくるBAPHOMETやBROKENHOPE等のOLDSCHOOL寄りだがミドルパートを多用するバンドを更にアップデートしたように感じる。
DYING FETUSがどのようなバンドに影響を受けたかはカバーアルバムHISTORY REPEATSを参考にすると詳しく知れるだろう。
6:BROKENHOPE/THE BOWLS OF REPUGNANCE(93)
シカゴ出身BROKENHOPEの2枚目の作品。91年リリースの前作もBRUTAL DEATHMETALの片鱗が見られたが本作ではより磨きがかかった仕上がりとなっており、収録曲の尺を見てもどれも3分以下というあたりEXTREMEさが増している。
曲構成もブラスト&ミドルパートで安定感のあるBRUTAL DEATHMETAL節だ。
7:MORTAL DECAY/GRISLY AFTERMATH(93DEMO)
NJDM番長のMORTAL DECAYの2枚目のDEMO。
MORTAL DECAY自体だいぶとクセの強いバンドだがこのDEMOはストレートにかっこいいように思うし、サウンドプロダクションもとても良く感じる。
DEMOに入ってる曲が後のフルレングスにも入っていることはよくあるが、大抵本記事で紹介しているバンドはDEMOの方がかっこいい気がする。
7:AFTERBIRTH/PSYCHOPATHIC EMBRYOTOMY(94DEMO)
NYはロンアイランド(重要!)出身のAFTERBIRTHの2枚目のDEMO。当時あまりに早すぎたその音楽性と2枚のDEMOのみのリリースで一部の好事家にのみ知られるバンドであったが、2013年に復活を遂げ20年以上あるキャリアの中で2017年にデビューアルバムを出した奇跡のバンドである。
NO LYRIC系のガチュラルスタイルは今でこそ珍しくもないが、このバンドが先駆けだったのではないかと思う。
8:CRYPTOPSY/BLASPHEMY MADE FLESH(94)
メタルヘッズに広く認知されているカナダ出身CRYPTOPSYのデビューアルバム。
CANNIBAL CORPSE/EATEN BACK TO LIFE期のボーカルラインやドラムフレーズ、MALEVOLENT CREATION、SUFFOCATION等BRUTAL DEATHMETALの原型のバンドから影響を受けながらそれをアップデートし確固たるスタイルを確立したミュータントアルバム。
レコーディングではクリックを用いなかったためテンポチェンジが激しく、その結果BRUTAL DEATHMETAL特有の過激さが生まれたと推測できる。
CRYPTOPSYは早さにばかり注目されがちだが、このアルバムは是非ミドルパートにも注目してほしい。
9:SCATTERED REMNANTS/PROCREATING MASS CARNAGE(94DEMO)
マサチューセッツ出身のSCATTERED REMNANTSの1枚のDEMO。ブラストパートとミドルパートで構成されて時折テンポチェンジでビートが落ちる緩急ある展開はBRUTAL DEATHMETALがジャンルとして確立されてきていることを表している。
確立されてきているもののOLDSCHOOLの雰囲気が抜けきっていないこの創世期の混沌感がなんともたまらない。
この混沌感はジャンル確立前の一時期にしか見られない旨味みたいなものだろう。
10:IMMORTAL SUFFERING/ETERNAL DAMNATION(95DEMO)
NY出身のIMMORTAL SUFFERINGの2枚目のDEMO。
92年から6年間の活動でDEMOとスプリット合わせて4枚のリリースをして解散、AFTERBIRTH同様に好事家の間で知られたバンドだった。しかしこちらも2013年に復活を遂げ20年以上あるキャリアの中で2015年にデビューアルバムを出した奇跡のバンドである。この時期あたりのバンドからミドルパートでスラムリフに近しいものが登場し始めてくる。
11:MORTICIAN/HOUSE BY THE CEMETERY(95)
元はNY出身のMORTICIANの2枚目のEP。
本作に限らず小難しいことはせずにミドルパート斜体で時折ブラストを交えつつEXTREMEさを追及していくスタイルはDEATH METALの過激さを抽出して特化していった原始的なBRUTAL DEATHMETALそのものだと感じる。 後のSLAMMING DEATHMETALバンドへの影響も計り知れないだろう。
12:INTERNAL BLEEDING/VORACIOUS COMTEMPT(95)
NYはロンアイランド(重要!)出身のGODFATHER OF SLAMことINTERNAL BLEEDINGのデビューアルバム。
95年リリースということで同郷の他のバンドに遅れをとっているように見えるが、収録内容としては92/94年のDEMO2枚を当時の新ボーカルで録っただけなのでタイミング的なところだと思われる。
ほぼ同時期に活動し始めたSUFFOCATIONに比べてミドルパートが多いあたり後のSLAMMING DEATHMETALへの影響は大きいだろう。
初代ドラマーの故BILL TOLLYはNYHCバンドPUNCH YOUR FACEでもプレイしておりHARDCOREシーズンとも交流があった。
13:DISGORGE US/NO TITLE(DEMO95)
数ある同名バンドの中のカリフォルニア出身のバンド。
収録曲自体は後の99年発表のデビュー作と同じだが、あのミュータント的楽曲が95年当時で完成していたと思うと末恐ろしい。
我がDIGの師が"なに食ったらこんな音出せるんだ"とよく表現しているが、DISGORGEのこのDEMOはまさしくこの表現がぴったりだ。
やはり95年あたりでBRUTAL DEATHMETALは最高峰まで煮詰まりきっているのではないかと感じる。
14:TYRANT TROOPER/INSANE SICKNESS(95)
NYはコネチカット出身のTYRANT TROOPERの自主リリースアルバム。
コネチカットというローカルHARDCOREシーンがある土地柄故か、初期MALEVOLENT CREATION同様HARDCOREヘッズにも受け入れられるサウンドが特徴的だ。また情報通の方から教えて頂いたが100DEMONSのメンバーが在籍していたらしい。
バッファロー、コネチカットのようにローカルHARDCOREシーンが栄えている地域出身のDEATHMETALバンドはミドルパートが特段かっこいいように感じる。
15:NECROCIDE/VOMIT FORTH BLOOD(95DEMO)
テキサス出身のNECROCIDEの2枚目のDEMOであり、実質DEVOURMENTの前身にあたるようなバンド。
粗削りではあるが後のDEVOURMENTに繋がるSLAMMING BRUTAL DEATHMETALの雛型が既に完成しているように思える。
95年でここまでビートが落ちたミュートがかったズンズンとしたリフは革新的だったのではないか。
こちらのDEMOは現在REISSUEされて流通している。
91年頃に発生したBRUTAL DEATHMETALは急速に進化を遂げていき95年にはHARDCOREとのクロスオーバーに通じるもの、SLAMMING DEATHMETALに通じるもの、BRUTAL DEATHMETALがもつEXTREMEさに更なる磨きをかけるもの等いくつかの枝分かれを見せてきた。
本コラムの後半では96年~00年にかけて更なる進化や発展を遂げたBRUTAL DEATHMETALを紹介していきたい。
~続く~
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