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なぜ名盤ランキングを考えるのか?


なぜ名盤ランキングを考えるのか?

ダニエル・パウターの「BAD DAY」やaikoの「KissHug」、GAGLEの「雪ノ革命」を聞き、感動している今日この頃。世の中は素晴らしい曲に満ち溢れていることに感動するこの日々。レッドブル片手にタイピングする文章。

なぜ人々は名盤ランキングを考えるのだろうか。そう考えたきっかけは、みのミュージックの「リスナーさんが選ぶ邦楽アルバムランキング29-1位」を久しぶりに見直したことだった。

私はみのミュージックの視聴者である。とくに学生時代の音楽の情報源は関ジャムか、みのミュージックだった。はっぴいえんど、YMO、東京事変、ゆらゆら帝国、山下達郎、キリンジなどに関してはヘビーリスナーであり、完全なファンである。

バンドミュージックやロックを中心に聞いていた数年前の自分にとってみれば、みのミュージックのランキングは幅広く音楽の名盤を取り上げていると感じた。

しかしヒップホップを中心に聞くようになった今見ると、あくまでもみのミュージックのリスナー、つまりはロックファンが選んだランキングなのだということがよくわかる。

それは当然のことのように思う。そもそも異なる音楽ジャンルをまとめてランキングにすることなど不可能に近いように思える。各音楽ジャンルがもつ歴史的意味合いや評価している音楽性が異なるためだ。

ビートルズの『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』、ケンドリック・ラマ―の『To Pimp A Butterfly』、アントニオ・カルロス・ジョビンの『Getz/Gilberto』、マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』のうち、どれが最も優れたアルバムかと聞かれて答えられる人など世界のどこにもいるはずがない。

では名盤ランキングの必要性とはなんだろうか?プレイリストをより優れたアルバムで埋めるための試金石とできることだろうか。もしくは次の世代のヒットメイカーに優れた曲とは何かを提示するためのものだろうか。

私は後者的な側面が強いように感じる。つまり名盤ランキングとはこれから曲を作ったり、聞いたりしたいと思う世代にとって、これまでどういった優れた曲があったかを提示するものであるように感じる。

何が優れているのかという感受性は人によって異なる。しかし触れなければ、それがどう優れているかなど感じようもない。触れるには知るしかない。優れているものを知りたいと感じる人間にとって、名盤ランキングはより重要性を帯びて現出するのではないだろうか。

とはいえ「邦楽アルバムランキング」と歌っているランキングの100位以内にヒップホップのアルバムが79位のPUNPEEの『MODERN TIMES』と89位のNujabesの『Modal Souls』しかないのは少し寂しく感じてしまう。

ということで「このアルバムはベスト100に入っているべき」と個人的に感じるアルバムを紹介します。

SEEDA『花と雨』

KOK 2019 BEST BOUT「ID vs スナフキン」をみると、夜中に気持ちが高ぶってしまう。「不定職者」のトラックがいかに優れているか、動画を一聴するだけでよくわかる。

紹介したい1枚目のアルバムはそんな「不定職者」も収録されている、SEEDAさんのアルバム『花と雨』だ。2006年に発売されたクラシックであり、日本語ラップ屈指の名盤である。

収録されている12曲すべてが洗練されており、内容が非常にコンセプチュアル。彼岸花を連想させるジャケットも収録曲とマッチしている。とくに「Daydreaming」、「Live and Learn」、そして表題曲「花と雨」の3曲は、シンセサイザーの音を活かしたトラックで綴られるリリックとフロウがあまりに美しすぎる。

とくに紹介したい2曲は「不定職者」と「花と雨」だ。「不定職者」に関しては、まず冒頭でも触れたとおり、トラックのリズムと曲調が気持ちを盛り上げる。そのうえでSEEDAさんのリリックが曲と合わさり、独特な高揚感を作り上げている。

「不定職者」のリリックでとくに気になるのは、「あ」の音で踏む韻が多用されている点だ。冒頭の歌詞でも

不定職者の 話の終点は
どうしたって金さ 欲失せるまでは

SEEDA「不定職者」

と小節の終わりごとに4度「あ」で韻を踏んでいる。サビ前の

金があればpeace?
金が無ければbeef?

SEEDA「不定職者」

では6度「あ」で韻を踏んでおり、サビでも「hustle a hustler」や「街をさまよう不定職者ha?」の歌詞にそれぞれ4度、「あ」の母音が含まれている。

日本語の「あ」と英語の「er」の発音の似ているのを活かしている点が非常におしゃれであり、「あ」の母音が生む手を挙げて乗りたくなるような高揚感もこの曲の特徴であるように思う。

紹介したいもう一つの曲が「花と雨」である。2020年には同タイトルの映画まで作成されたこの曲は、2002年9月3日に亡くなった姉にむけて書かれた曲だ。

まず素晴らしいのはハウス的な要素を含んだトラックである。シンセサイザーのコードや電子音が歌を美しく彩っている。そして何より最高なのはSEEDAさんの洗練されたリリックだ。

綴り切れない 思いをつづる今日も
終わりの無い ララバイで眠る

SEEDA「花と雨」

「もっと話すことあったって いっちまって気付く」ことは生きていれば誰しもが経験することであると思う。まして年齢の近いきょうだいが亡くなる経験はショッキングなものだっただろうと感じる。その思いが素直に言語化され、リズムに乗って綴られていることが素晴らしい。

Standing on my own two
I'm a bad ma-fucker

SEEDA「花と雨」

SEEDAさんの日本語のリリックの間から現出する英語の歌詞は非常にかっこよく映る。「Standing on my own two」や「smokeしたって ここじゃいけねーわ」の歌詞からは漂う哀愁と姉へのリスペクトを強く感じるが、韻踏み夫の著書『日本語ラップ名盤100』にも書かれている通り、死者を代弁する「レぺゼン」的な要素が含まれているのかもしれない。


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