自分のための小さな変化。
黒髪が好きだった。29歳くらいまでは。
それなりに制服も校則もあった中学・高校時代は、そんなルールに反抗してまで髪を染めたいとも思ってなかった。
大学デビューで髪を明るくする周辺の子たちをみながらも、自分は黒髪だった。
あ、一度だけ、ドラッグストアで購入できるカラー剤でうっすら茶色っぽい髪にしてみようかと試みたことはあったかも。高校生の夏休みに。でも、結構きつい匂いに髪が染まることとかそんなことが面倒になって、興味は一瞬で冷めた。
そこからは迷うことなく黒髪。
別にカラーされた髪が嫌いというわけではない。むしろ、明るめの髪色のほうが似合う人だっているし、髪を染めた子たちはかわいい。
大学に入るとやっぱり、くるくると髪型を変える子がたくさんいて、その度に”わあ、かわいい””ステキだな〜””おしゃっれ〜!”って思っていた。
だけど、自分が何かをしたいって思ったことはなくて。
きっと、それはこういう工夫はキレイな人たちがするから、かわいく化けるだけで、私は何か身体の一部を変えたところで対して変わらないだろうという諦めがあったから。
あとは、根っからの面倒くさがり屋で、プリンにならないような頻度で美容室に通うことができる自信がなかったからもある。
そして、そもそも、美容室という空間が苦手だというのもある。
で、そんな私が髪を染めた日。
不思議なことにきっかけなんか何もなかった。
強いて言えば、「見た目の変化は誰のためでもなく自分のためのもの」という考えがしっくりきはじめたからだ。あとは、白髪染が初めての染髪になるのはなんだかなあって思って。白髪染の前におしゃれ染めを経験しておきたいなって。
見た目の変化だけではなく、新しい洋服を身につけるとか新しいアクセサリーを手に入れることとか。おしゃれって誰かに見せるために頑張るものだと思っていた。
だから、私なんかがっていう思いが心のどこかにあって、見た目を変えることに積極的ではなかった。
なんだけど、たぶん、年齢をそれなりに重ねることで、自分の機嫌のとり方を学んで、自分を愛でることの大切さも学んだ。
男にモテたいからでもなく、あの人すてきだなって誰かに褒められるためでもなく、自分は自分のためにするおしゃれがあるって何となくわかってきた。
髪の毛の色なんて、(”なんて”って言ったら語弊があるかもしれないけど。)正直相手に対する第一印象は変えられたとしても、評価を変えるほどの大きな要素にはならない。
だけど、春がくるからとピンクを入れた茶髪にしたときと、冬だからってベージュ系の落ち着いた色にしたときでは、鏡を見るときの気持ちがなんとなく違う。写真をとっても分からないくらいの些細な差。きっと誰も気づかない。だけど、今回はこういう経緯でこの色に決めたんだっていう流れを知っている自分がいる、それだけでなんだか楽しい。
ふふふ。
そんな自分のためにこれからも髪を染めようと思う。
しばらくは黒に戻れそうにないな。