君の報せが胸をざわつかせる
SNSとは便利なもので、知りたくて仕方ないけれど、誰も教えてくれはしない情報を知らせてくれる。
もちろん、知りたくない情報だって教えてくれる。
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例えば、自分にはまだ新しい恋人がいないときに元カレが結婚したと聞いたら、やっぱりなんだかちょっと悔しくなる。それは未練という意味とは異なる。まだ好きとかそういう感情とは異なる。
なんだろう、ちょっと語弊を与えるかもしれないけれど、なんだか私には合わなくなった洋服をリサイクルショップに出したら、すごいキレイな人が翌日それを着ていて、私のときよりも何倍も何十倍も輝いて見えるような、そんな少し悲しいような悔しいような寂しいような想い。
私では見せれなかった表情、私とは見れなかった景色、私とは見たいとは思わなかった未来。そのどれもを達成できた今の奥さんが単純にすごいなって思ったり。
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ただただ片思いレベルでなんとなく憧れている人の結婚はただただ嬉しい。いいな、かっこいいなって思っていただけレベルで個人的な関わりもあまり無いくらいの先輩の幸せだって知れてしまうのがSNS。
個人的に報せなんてこない。だって個人的な連絡先なんて知らないもん。共通の知り合いなんていない、そんな彼のことなんて誰も知らせてこない。憧れていたのも微かなレベルで、誰かが知っているようなしっかりした感情ではないのだから。
そんな彼が我が子に笑いかける、THE幸せな家族写真的な絵はすごい好き。ああ、好きだ。いいなあ、って素直に思える。
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私のことを毛嫌いしていて、本当に露骨に避けてきたあの子。早く結婚したくて結婚や子育てが女の幸せだと信じて疑わず、仕事を頑張りたい派を少し冷めた目で見る彼女。
そんな価値観だからこそ自分に恋人がいないことを気にしていたのを知っていた。直接連絡をとるなんて、あの子が許すはずがない。そのくらい嫌われていた。
そんな彼女のSNSにはいつまでも女友達の影しかなくて、私は意地が悪いから自分の左手薬指にある指輪を見ながら、ほらねって微笑む。あなたが嫌いなやり方であなたが思う幸せを私は持っているよ、と。
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”離婚しました”
たった一言。それ以上でも、それ以下でも無いその一言は、いろんな想像をかきたてる。
子はかすがい。あまり好きではない言葉だ。
そういえば、新卒で最初に勤めた会社の上司が子供がいない夫婦だった。それは選択の上なのか、不可抗力での結論なのかは知らない。だけど、ワンコを飼っていた。そして、「子犬はかすがい」と言っていた。
そして、私はその会社から離れてしばらく経った頃、その上司が離婚したと聞いた。
そのとき思い出したのだ、子はかすがいという言葉を。
やはり子供がいないというのは別れる理由になり得るのか、と。
私は産まない選択をしたいと今、現在思っているし、おそらくその意思は変わらないと思っている。そんな私にはかすがいは持てないのか、と。
そして聞いた”離婚しました”。
そういえば、子供がいるという話は聞かなかった。言ってなかった、聞いてなかっただけではないと思う。本当にいなかったと思う。だって結婚したのは知っているから。
そういえばと思った。
今頃、籍を抜いたのだとしたら、揉めていた頃かもしれない。深夜の着信があったあの夜は。翌朝気づいたから、ごめんとだけ返した。
どうでもないような数回のラリーを繰り返しただけだった。そして夜になって、またねとどちらからともなく言った。
きっと理由はずっと聞かないと思う。君が話してくれるまでは。いや、きっと話さない気がする。そういうレベルの仲だから。
仲の良さにはたくさんのグラデーションがあって、君と僕との”それ”はきっと、大事なことは言わない”それ”なんだと思う。
いつかの夜を思い出す。
その夜も確か遅くに君は突然電話をかけてきた。少し、いや、だいぶ酔っていたんだろう、普段から舌っ足らずな話し方がさらに呂律が回っていないようだった。
自宅に帰るまえにコンビニでお酒を買って、外で飲んでいる、と。
帰りたくない理由なんて知らないけど。誰しもそんな夜がある。自宅には大好きな誰かがいたとしても、大切だからこそ見せたくない姿がある。
なんだか無駄に緊張して、私も冷蔵庫からチューハイを取ってきたような気がする。向こうが酔ったノリで適当に話している言葉を素面の頭で受け止めるのはフェアじゃない気もした。
私はまだその頃は一人暮らしで、一人でいる静かな1Kの部屋がなんだか色を帯びた。
それは、単に今を楽しむための会話で、情報は流してしまって構わなくて。明日に残すべきことなんて、言葉を交わしたという事実だけでいい。そんな時間だった。
わかってはいる。そもそも友人が多いうえに人たらしな君は、なんとなくLINEで目にとまったアイコンを押していただけだということは。
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また会う日が来たら、笑って会えるといいな。