
あなたは我が青春
サッカーの忘れられないシーンか。
きっとこのお題には適さないであろうシーンを私は思い出す。
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今はなんだかちょっと冷めた人間になってしまったのだが元々サッカーは好きだ。もちろん見る専門だけど。
日韓ワールドカップのときの担任の先生がサッカー好きだったこともあり、世間と同じようにその熱に魅了されてしまった。
そしてその頃に好きになって今でもスポーツニュースで名前を聞くと絶対に目線を奪われてしまうのが大久保選手。
熱い方なので賛否両論の中にずっといたような印象だけど、ちょうど、私人生一番自由な(時間とそのくらいのことができるお金が、ね)大学時代、一人で彼を見に、Jリーグの試合の観戦にいってしまっていたほど、ファン。
今は、すっかりフットワークが重くなってしまってなかなか生で見る場所まで行けていないけど、ずっと応援したい選手。
さて、話を戻そう。
そうして、サッカー好きになった私だけど、2010年の南アフリカワールドカップはやはり特別だった。
大学一年生という、自由を満喫できる年頃で迎えたこのお祭りは本当に最高だ。初めてのひとり暮らしで帰宅時間なんてうるさく言われない環境にいる私は夜間の試合だって最後まで見届ける。自宅ではなく、どこかで、誰かと。
この時ばかりは、学生特有の開放感もあって、もともとサッカーなんてよくわからないよって子も一緒に騒いでいた。社会人ほどの財力はないし、年齢的にも入れないからスポーツバーでのパブリックビューイングはしていないけれど、その頃の大学周辺のカラオケでは、観戦のために部屋を貸してくれた。
カラオケだけあって、どんなに騒いでもいいし、軽食はいつものように調達できるし。大人な楽しみ方ではないかもしれないけれど、この時期だから楽しめる楽しみ方で応援していた。
ベスト8入りをかけた戦いで、もはやどんなシーンだったかは思い出せないが、みんなで肩を組み合って国歌を歌った。きっとこの先無いんだろうなと思う。
願うようにみんなで手を握りしめながら、ひたすら祈った。現地にはいないから選手に届くはずはないけれど、PKの一球、一球に声を乗せていた。
あの頃の若さといろんな思い出はサッカーの本質とはずれるかもしれないが素敵な思い出として私の中で生きている。
ただ、同じPKだったら、私が思い出すのは全く違うシーンである。
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高校サッカーの県大会の決勝で、背番号10をつけたあなたが外したPK。
膝から崩れ落ちるというのを、目で見たのはこれで初めてだったかもしれない。
私は小さな田舎町で育った。小学校から中学校までそのままのメンバーで進んでいくような、お受験とも関係のない環境で。
1学年で2クラスか多くても3クラスという、どんなに人との付き合いを避けていたとしても、小学校入学から、中学校の卒業までの間に同じ学年のメンバーであれば顔と名前が一致するくらいの狭い世界で生きていた。
それが窮屈でもなんでもなく、ただただ普通だった。こんな町から県内有数の強豪校に進むスターが出たのだ。
よくよく考えれば、その中学から甲子園球児も箱根駅伝走者も出ていたから、別にそこまで珍しいことではなかったかもしれない。それを特別なこととして認識しているのは他ならない私の恋心なんだと思う。
恋心といっても、”恋する”ことに恋していた程度の、本当に懐かしい記憶。
中学卒業のときから、あのサッカーが強い高校にあの人が進学したことを知っていた。別にうちの中学のサッカーのレベルは高くない。こんなこと言えばサッカー部に怒られるかもしれないが、そんなこと部員本人たちが一番理解していると思う。だから、そんな環境から毎年県大会の決勝の常連で、全国大会でも躍進し、プロも何人も輩出している学校にあの人が行くのは、それはそれは特別なことだったのだ。
そんな環境からの進学だったもんだから、さすがに1年生のときからレギュラーとはいかない。確か2年生になっても状況は変わらず。まあ、なんていったって、強豪校。たった11人の出場枠をその10倍近い人数が競い合っているのだ。
そうして3年生が引退し、あの人たちの代になったとき、レギュラーにはあの人の名前があることを知った。
連絡先なんて知っていないから、頑張れもおめでとうも一言も届けられていないけど。
そうして迎えた最後の大会。冬の高校サッカー選手権。県大会、決勝。
決勝の2校はいつもの顔ぶれで。
そして最初の場面に戻る。
膝から崩れ落ちる姿を初めて見た、あの瞬間に。
これ以上でもこれ以下の思い出もないけれど、努力をしても、満足できる結果はいつもくるわけではないという青春の甘酸っぱさを感じた。
高校を卒業したあの人はこれまたサッカーが強い大学に進学していた。そのあとは確か地元に帰って、同級生と結婚して、幸せな家庭を築いていると思う。友達でも知り合いでもないから”思う”の範疇を出ないし、風のうわさ程度の情報しか知らないけれど。
サッカーを観るのは今でも好きだ。
好きになってからずっと大久保選手は追いかけていて、やっぱり、ニュースで名前を見かけると、目は止まる。そして、その度にいつも、当事者以外の記憶には残っていないであろう、有名でもないあのシーンを思い出す。
下書きをずっと前に書いていて、なんだか書き進められなくて今になる。気づいたらお題の募集は終了していた。まあ、いっか。