はるかなる航海のはじめに
人生が大きく変わろうとしているとき、自分の「名前」もまた、変わる。
「野原海明」と名乗るようになったのは、2009年のことだった。親戚も友達も、誰ひとり知る人のいない鎌倉の街。まるでリセットボタンを押すみたいに、私はこの街に越してきたんだ。
誰も私のことを知らないから、ずっと名乗りたかった名前を言ってみた。野原海明(のはらみあ)。それは、中学生の頃の私が自分に与えた名前だった。あれから10年が過ぎて、もはや自分の本名が、遠い他人のもののように感じる。
そして今また、自分の名前が変わるときがやってきている。
みあんご。
なにそれ。ふざけた名前。
でもね、ずっとそんなふうに、気軽に呼んで欲しかったんだ。「野原さん」でも「ミアさん」でもなく。
自分はずっと、虚勢を張ってきたんだと思う。近づき難い人でありたかった。だって、人間が苦手だから。そのくせ、寂しさを感じるという矛盾。
初めて「みあんご」と呼ばれたとき、こそばゆかったけど嬉しかった。生まれて初めて私についたニックネーム。私はもっと、自分の外側に築き上げた壁を崩してもいいのかもしれないね。
名前が変わると、たぶん性格も変わる。きっと魂に刻まれた何かが書き換えられるのだと思う。私は自分の中の、もっとひょうきんでおっちょこちょいでだらしない部分を外に出していきたいな。
それで、「安吾」とか「太宰」とかみたいに、ちょいと皮肉な感じで「みあんご」って呼ばれたら嬉しい。
🌟
虚勢を張って、必死に人生を生きてきた。なめられないように、弱みを見せないようにと、ずっと思っていた。ダサいところは見せられない。人になんて頼れない。そういう自分を手放していこう。
必死に逆流をオールで漕いでいく航海は終わり。私は「自分」という帆を張って、風に任せて旅をしてみたい。はるかなる航海の記録。それは、次にそんな旅に漕ぎ出す誰かの道標となるんだろう。
2020年11月1日
海明(みあんご)