美しいからなんなの
・もしも自撮りができたなら、
どんなに幸福だろうと信じていた。
・わたし、痛みと恐怖に耐えて、莫大な時間とお金をかけて、整形と矯正をして。
それで、美しい顔を手に入れたわけです。
図々しいこと言っていいですか?
美しいことに飽きました。
・顔さえ美しかったなら。
もし私が美しくて、インスタに自撮りを載せまくれたなら、アイドルみたいに生放送ができたなら。
どんなに幸福だろう。
そんなことばかりを、本当に、ずっと考えていた。
たしかに、私の顔は少なくとも私にとって恥ずべきものではなくなって、「インスタに自撮りを載せまくる」「アイドルみたいに生放送ができる」幸福を手に入れたわけです。でも。
…なんか…
思ってたほど…。
インスタに自撮りを載せまくっても、アイドルみたいに生放送してみても。
泣きたくなるぐらい、世界は変わらない。
というか…あんまり…
私、興味ないかも…。
・今なら分かるよ。
顔が美しかろうとそうでなかろうと、そんなことは私のしあわせには何も関係なかったんだ。
私の本当の目的は、そうではなかった。
「顔さえ美しかったなら」。「あるはずだった人生」。
そうやって、今の自分を殴れる凶器を探していただけだった。
・自分を殴るのはものすごくラクだった。
私にとって。
罰されることによって、カンタンに許されている気になれた。
・あるはずだった人生とか、周りはみんなこうなのに、とか。考え出すと、無限につらい。
でも、冷静に、自分は本当にそうなりたいのか考えてみる。
私は、よく考えたら、別にそんなでもなかった…。
・後悔はしていない。
やってみなかったら、一生わからなかったと思う。
あんまりやりたくないんだってこと。
・それにしても。
好きになれることが幸福なのだと思っていた。
すごく好きなわけでも、すごく嫌いなわけでもない、私の顔。
どうでもいいと思えることを、しあわせに感じる。
・私をたまらなくうっとりさせる、愛しい服や人形に満たされた、この小さな部屋。
・救済の日がいつか来る。いつかすばらしいことが起きて、人生のすべてが永遠に変わり、それからは何の苦しみもないのだと。
そう信じていた。
救済の日は来ない。