Webtoonとマンガ、企画の考え方はどう異なるのか?(後編)
はい、というわけで前回に引き続き「Webtoonとマンガ、企画の考え方はどう異なるのか?」について考えていきたいと思います。
ザックリ前回のおさらいをしますと、Webtoonの企画を考えるためにはまず「土地勘」を持つ必要がありますよね、ということで「Webtoonとマンガの状況の違い」について解説しました。
まとめると、Webtoonはマンガに比べると未成熟なジャンルで
・市場規模が(まだ)小さい
・配信先が(まだ)少ない
・認知度が(まだ)低い
・ウケるジャンルの幅が(まだ)狭い
・ユーザーが(まだ)ライト層中心である
・表現方法が(まだ)未開拓である
・編集者や編集部が(まだ)未熟である
という特徴や課題があるよね、って話でした。
一方で、
・誰にでも読める
・狙い目である
・未成熟である
という良さもあるよね、ということについて触れました。
以上を踏まえて、Webtoonの企画をどう考えていけばいいのか?マンガとどう違うのか?という話を今回は書いていきたいと思います。先に断っておきますと「こういう作品はWebtoonでは不利」みたいなことも書いていきますが、「あれがダメ!これがダメ!」と言いたいわけではなく(むしろ可能性を広げたい派なんですが)、「地の利を知った上での工夫が大事」と思っていますので、ご理解いただけますと幸いです。また「現在の状況の中ではこう考えられる」というだけで、今後の状況変化によって求められる作品像も変わっていくと思います。悪しからず。
※以降、白黒の横読み漫画のことを「マンガ」、カラーの縦読み漫画のことを「Webtoon」と呼びます。例えば「電子マンガ」とは、白黒横読み漫画の電子書籍のことを指します。
アプリでの独占配信がメインであるWebtoon作品に求められること
アプリでの独占配信であることが多いWebtoon。単行本が発売されれば全国書店と電子書店に並ぶマンガと比べて、求められる作品内容がどのように異なってくるのか、ちょっと考えていきましょう。
アプリでランキングに入る必要がある
めっちゃ普通のこと言いますが、掲載アプリのみでの独占配信の場合、アプリ内で人気を獲得しなくてはいけません。人気を獲得しランキング入りすれば露出が増えて新規ユーザーに読まれる、という好循環を作れますが、入れないとどんどん他作品に埋もれる悪循環に陥ります。では、どんな作品がランキングに入るのかというと基本は「たくさん話数を読まれた作品」です。無料公開分やチケット対象のエピソードをどんどん読み進められた(その結果、課金にも繋がった)作品がランキングに入るわけです。
さて、この時点で早くもWebtoon企画として不利なジャンルが出てきます。例えば「短編」です。これは読まれるエピソード数自体が少ないのでこのシステムの中ではどうしても不利になってしまいます。また「各話読み切り形式」や「ショートギャグ作品」、キャラの可愛さをただ愛でる「萌え系作品」もドンドン先に読み進めたいという推進力に欠けるため、比較的不利になると考えられるし、少なくとも何らかの工夫が必要です。
マンガとは異なる1話目の作り方
また連載1話目の作り方にもマンガとの違いが出てきます。マンガの場合、連載1話目には基本的に「こんな世界観で、こんな主人公が、こういう活躍をしていきます。乞うご期待!」というところまでフルセットで入れきります。みなさんはネットや雑誌などで連載の1話目だけを読んで(2話目以降を読まずに)「面白い!単行本が出たらまとめて読もう」と思ったような経験はないでしょうか?マンガにとって1話目はまさに「名刺」で、世界観・キャラクターの魅力と作品の向かう方向性を十分に示し、単行本の購読に繋げていく必要があります。連載で2話目以降も続けて読んでもらえるとベターなのですが、1話目で作品を信頼してもらい、後に単行本を買ってもらえれば、それはそれでOKではあります。
一方でWebtoonの場合。1話目だけを読んで離脱されるのは非常にマズイです。ランキングも上がらないし、単行本も出ないのでリカバーもできません。マンガ同様「こんな世界観で、こんな主人公が、こういう活躍をしていきます。乞うご期待!」セットをなるべく連載冒頭に入れるということは変わりませんが、それ以上に「2話目を読ませること」が1話目の大命題となります。なので、Webtoonには1話目だけ読んでもまだお話の全体像が見えない作品がけっこう存在します(その分、1話目の前に予告編的なプロローグ入れたりしてフォローしている例も多いですね)。
必然、Webtoonには「冒頭で掴み、主人公の強い気持ちにライドさせ、飽きさせず、迷わせず、一本筋でグイグイ読ませ、強い『ヒキ』で次話へと繋げていく」という「お話作りのスタイル」が求められてくるわけですが、そう考えるといくつか難しいと感じるジャンルも出てきます。
例えば群像劇的な「大河ドラマ」。たくさんの登場人物の思惑や利害関係を「一方その頃〇〇国では…」と説明していると読者の気持ちが途切れそうです。少なくとも物語の中心に主人公がい続ける工夫は必要でしょうね。同じ理由で野球やサッカーなどの「多人数同士が戦うスポーツもの」も難しさを感じます。これは「画面の横幅が狭いため多数のキャラを同時に扱いづらい」というWebtoonの表現上の特性も関係していて、新しい表現方法の開発が必要になってくると思います。
前回のnoteで「異世界ファンタジー」「バトルもの」「ロマンスファンタジー」「悪役令嬢もの」「青春恋愛もの」「不倫もの・復讐もの」「サスペンス・ホラー」「バイオレンス」「エログロ」がWebtoonでは人気だ、と書いたのですが、それはこれらのジャンルが上記の「お話作りのスタイル」と相性がいいからなんですよね。
「Webtoonではこのジャンルが人気です!」だけだと「へー…」という感じですが、その背景まで知ると理解度が深まりまりますし、「じゃあ、こんなのもアリなんじゃね?」と新しい挑戦に繋げていけると思いますので、もうちょい掘ってみましょう。
ライトユーザーがメイン読者であるWebtoon作品に求められること
前回の記事でも書いたように、Webtoonはライトユーザーが中心で、独自の嗜好性や高いリテラシーを持つヲタク読者はまだ育っていません。そんな読者とどう向き合い、企画をどのように考えていけばよいでしょうか?
媒体によってユーザー層が違うので研究する(当たり前)
当たり前なんですが、一口にライトユーザーが多いと言っても、アプリや電子書店など掲載媒体によってユーザー層が違うので、どんなユーザーがいるかどんな作品がウケているか研究する必要があります。これは雑誌も一緒ですね。
この時に「このジャンルがウケているからこういう系を描こう」というのも一つの解だとは思うのですが、この作品で読者はどう心が動されたのか、それはどんな人なのかを想像して、その人と自分との交差点を探っていくとより本質的かと思います。
マーケットインか、プロダクトアウトか?
コンテンツ制作の現場でよく議論されることとして「マーケットインか、プロダクトアウトか?」というのものがあるかと思います。平たく言うと、世間にウケると思う作品を作るのか、自分が面白いと思う作品を作るのか、という議論なわけですが、僕の意見を先に言うと「商業作品を作る上でこのどちらかだけってことはない。両輪が必要」と思っています。「自分が描きたい」だけだと独りよがりだし、「読者が読みたい」だけだと魂がこもらない。2つを一致させられる人がプロだよな、と。
ただ一方で、ウケるかどうかと関係なく「これを描かないと自分はどうにかなってしまう!」というような「作者にとって切実な作品」というものも存在します。また、世間でどんな作品が求められているとか関係なく「自分にはこのようにしか作品を描けない」という強烈な刻印を持つ作家さんもいます(僕ら編集者はそういう方を「作家性が高い」と評したりします)。
マンガには、そういう作品や作家さんも受け入れられる成熟した土壌があります。成熟した読者や評者がそういう作品や作家さんの持つ「違い」に価値を見出して評価し、時には大きな数字にも結びつく。
しかし、Webtoonの読者はまだそこまで成熟していません。プロダクトアウトだけで数字を作ることは難しく、「どうすれば読者が楽しんでくれるか?」というマーケットインの視点が非常に重要になってきます。
ざっくりと言えば「自分が描きたいものを描きたい」という作家性が高い作家さんはマンガを描いた方がよく、「読者にウケるのが好き」という作家さんはWebtoonが向いていると思います。
「読みやすさ」と「わかりやすさ」が重要になる
ライトユーザーの方に楽しんでもらう上で非常に重要なのが「読みやすさ」です。読みやすさとは「絵と文字の入れ方が適切で状況と感情がしっかり伝わってくること」で、特にネーム(※絵コンテ)の出来が大きく影響してきます。(余談ですが、国産Webtoonが中韓Webtoonに一番差をつけられているのはこのネームだと思います)。
人気のWebtoonはこのネームがうまいわけですが、特にフキダシの数や入れ方、フキダシ中の文字数など、情報量の入れ方に非常に気を遣っているのが伝わってきます。情報量が少なければいい、多いとダメ!というわけではないのですが、「ウンチク作品」や「推理もの」のような情報量の多い企画は、ネーム作りに相応の工夫が必要になってくると思います。
もう一点重要なのが「わかりやすさ」です。以前、後輩の編集者が「マンガの面白さには味とダシがありますよね」と言っていました。他人にも説明できるハッキリとした面白さが味で、なんか雰囲気が良かったり伝わってくるものがある非言語的な良さがダシ、と理解しているんですが、ちょっとわかりづらいんでホラー作品で例えると…
・正体の見えない漠然とした不安に苛まれる…みたいな展開はダシ的な面白さ
・明確な脅威が眼前に迫っている…みたいな展開が味的な面白さ
…って感じです。マンガには味優位の作品・ダシ優位の作品それぞれあると思うのですが、Webtoonは味がハッキリしている必要があると思います。
まだまだ議論は尽きないですが…
これ以上具体的な話は作家さんや企画ごとに個別に考えていった方がいいと思うので、とりあえず以上とさせていただきます。
マンガより成熟してないからWebtoonは自由度が低いということか、というとそういうわけでもなくて、僕はむしろ「色んなことできそうだな〜!」とワクワクしています。成熟しているということは、色んな角度から目が肥えた眼差しで測られるという側面もあるので、マンガにはマンガの気をつけなきゃいけないことも多いんですよね。
あと、掲載している場所で人気になればOK!というのが、昔のマンガ雑誌みたいでわかりやすいなー、と思います。マンガはアンケートやPV取れても売れないこと、もしくはその逆もままありますし、色んな嗜好の層が存在するので、考え方が複雑なところがあります。まあ、本当にそれぞれの良し悪しがあるって感じですね。
前回と今回で、Webtoonの地形と企画の考え方について、大まかに伝えられたんじゃないかと思いますが「Webtoon興味あるから個別に話したいぜ!」という方はぜひぜひご連絡ください!
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では、またなんかネタができたら投稿しますので、引き続きよろしくお願いします。長々とありがとうございました。
サムネイルで兼近さんと並ぶことはこれが人生最後だと思いますので先日AbemaPrimeに出た時の動画を記念に貼っておきます。
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