穴のあいてないテレフォンカード〜桜舞い降りる記憶の中で〜
孫が懐かしい物を見つけてきた。
一枚の古いカード。
…
「乙女ばぁちゃん、今日もじーじの所にお見舞いにいくの?」
「そうね。今日もお見舞いに行くよ。」
「じーじ、いつも寝んねしてるから、乙女ばぁちゃんがお話してる事、分からないんじゃない?」
「桜ちゃん、ジージは眠っていても、ちゃんとばーばとお話してるんだよ。」
「寝んねしててもお話できるの??声でてないよ?」
「声を出さなくてもお話できるよ。今日は暖かいね。とか、桜ちゃんが春から小学生になるよって」
「じーじはなんて言ってるの??」
「うんうん、って笑って聞いてるよ」
「ふしぎ〜桜には聞こえないけどな〜」
「桜ちゃんも、大きくなって大好きな大好きな人ができたら分かるようになるよ。言葉っていうのはね、眠っていても聞こえるんだよ」
「桜はすみッコぐらしのねこちゃんが大好き!」
「そうだね〜桜ちゃんにはまだ分からないかな〜」
「ねぇ、乙女ばぁちゃん、そういえば、この前、ママがコレを乙女ばぁちゃんに渡してって」
…
…
「小銭足りるかな…」
カラン、カラン、カラン…
(がんばれ、私…)
…
受話器がなる。
「はい、宮城です。」
「あの…比嘉…乙女といいます。賢一さんいますか?」
「あーはい、ちょっと待ってね。」
(おーい!賢一!乙女って女の子から電話!なんだ?彼女か?)
(うるせえ!バカ兄貴、違うわ!クラスメイト!)
…カラン
「もしもし?ごめんな、兄貴がなんか」
「ううん…あのね。明日の卒業式だけど…」
「おう、どうした?」
「賢一君、福岡の大学行っちゃうでしょ?だから、最後に卒業式終わったら一緒に帰りたいな…って思って…迷惑だったらごめんね。」
…カラン
「まぁ、良いけど…、」
「うん、ありがとう。」(やった…!)
「比嘉は沖縄に残って就職だったよな。オキコだった?」
「うん、私勉強、得意じゃないし。兄弟も多いから、家の近くのパン工場で働くよ」
…カラン
「そっか、大変だな。なんでまた、俺と帰ろうと思ったんだ?」
「え?それは…その…。賢一君の事が…あの…」
…
「あ!ごめんね。電話切れそうだから、また。明日ね。よろしくお願いします!」
「お、おう!明日な!」
…ガチャン
「………っっ!!!緊張したーーーー!!!」
やった、良く頑張った私、偉い私、凄いぞ私。
明日の卒業式、賢一君と帰れる!
…
「乙女!!夜からどこ行ってたの!危ないじゃない!なにしてたの!!」
「ルミ子ちゃんと電話してたの明日の卒業式の事だよ!」
「だったら家の電話でかけたらいいじゃない!」
「いいの!大事な話だったの!」
…
「賢一、彼女だろ?」
「ちげーよ!何言ってんだよ。バカ兄貴。明日、卒業式の帰り一緒に帰ろうって電話で。そんなんじゃねーよ!」
「賢一、お前…本気で言ってるのか?」
「なんだよ、まだなんかあんのかよ?」
「女の子が夜から、卒業式に一緒に帰ろうなんて電話してくるか?お前の事が好きなんだよ!この石頭!」
「はぁぁ〜!?比嘉が俺を!?」
「なんか心あたりないのかよ?」
「まぁ、席替えの時はいつも隣に座ってるし。帰りもなんとなく一緒に帰ってたし。野球の試合には応援にいつも来てたし」
「お前、笑えんぞ?」
「うそだろ…比嘉が!俺を!?」
「鈍感にもほどがあるだろ…」
…
「先生、ありがとうございましたー!」
「乙女ちゃん、一緒に帰ろー!」
「ルミ子ちゃん、ごめんね…!」
「おぉ!そーか、そーか!分かった、皆まで言うな。大丈夫、私は貴子ちゃん達と帰るよ。頑張ってね!」
「ありがとう!」
…
「ごめんね。賢一君、待たせて」
「大丈夫、俺も友達と先生に挨拶してきたから」
「比嘉はいいのか?」
「うん。」
…
「比嘉、あのさ…」
「うん」
「昨日、電話もらってからずっと考えたんだけど…」
「うん」
「ありがとな」
「え?」
「いや、野球の応援とか、テスト前の勉強とか苦手って言ってたのに、いつも手伝ってもらってさ。おかげで大学も合格できた。」
「ううん…私が勝手に賢一君が頑張ってる姿を応援したかっただけだから…」
「俺、今まで比嘉がいて当たり前だと思ってた。全然、比嘉の気持ちも考えてなくて。大学行っても比嘉がいると思ってたけど。いないんだよな…」
「ごめんね…私はこっちで決まったから」
「俺の方こそごめんな。これからは離れ離れになるな」
「うん…」
「比嘉、コレもらってくれないか?」
「ありがとう。嬉しい。私がもらっていいの?第二ボタン」
「コレだけは比嘉に上げたくて、あとコレも…」
「テレフォンカード、俺が内地いっても電話して欲しい。俺からも電話する。」
「うん…」
…
「比嘉、いや。比嘉乙女さん。俺と付き合ってください。遠距離になるけど、お盆の頃には必ず帰ってくるから」
「私でいいの?内地には可愛い子たくさんいるよ?」
「乙女じゃないとダメなんだ。こんな偏屈な俺じゃらダメか?」
「ううん…嬉しいです。私のほうこそよろしくお願いします。」
…
…
「乙女さんこんにちは、今日もお見舞いご苦労様です。」
「いえいえ、こちらこそ、主人がいつもお世話になって、ありがとうございます。」
「今日はお孫さんは一緒じゃないんですね。」
「桜は、お花見ですって、花より団子。お菓子買ってもらって喜んで出かけました。」
「そーなんですね。今日は暖かいですし、ここの窓からも桜が見えますよ。」
「ありがとう。主人も桜が好きで内地で撮った写真を良く送ってくれました。今みたいに簡単に撮れる時代じゃなかったのに、私が内地の桜が見たいって言ったら、毎年送ってくれてね」
「あらやだ、年寄りみたいな話ね、オババだから許してね」
「そんな事ないですよ、乙女さんは可愛いおばぁちゃんです。」
「まぁありがとね〜」
…
…
「まぁ、桜が咲いてきれいね。そこからでも見えるかしら?」
「さっき、看護師さんが教えてくれたのよ。桜が咲いてますよ。って、ほらお名前なんだったかしら?えーっと、思い出せない…ほら、あなたが好きそうなタイプの…うーん、まぁいいわ。後から思いだすでしょう」
…
…
「ねぇ…」
「あなた覚えてる?あなたが高校の卒業式に私にくれたテレフォンカード。」
「桜が見つけてくれたの、懐かしいでしょ?」
「あなたには内緒にしてたけど、このテレフォンカード貰った時、すごくすごく嬉しくてね。結局使えなかったの。なんだか…使ってしまったら、あなたと別れてしまうんじゃないか。って、」
「お家の電話からだとお母さんやお父さんがうるさくてね。よく公園の電話ボックスまで行ってたのよ。ルミ子ちゃんって覚えてる?いつもあの子のせいにしてたわ。後から聞いたんだけどバレてたみたい。可笑しいでしょ?」
「そうそう…ルミ子ちゃん、今度、3人目のお孫さんが生まれるそうよ。うちも2人目が早くみたいわね。」
「あの時、あなたが住んでいた寮の電話番号、なんだったかな。この番号だけは死んでも忘れないって覚えていたのに…。嫌ね、歳はとりたくないわ。」
「なんだったかしら、098…098…」
風が吹く
窓から桜の花びらが舞い降りる。
(…098-×××-6700…)
「そうそう、恋のダイヤル6700ってね!」
…
「もう…」
「やっぱり聞いてるじゃない…」
「昔から変わらない偏屈な人ね」
…
私の大好きな賢一さん
(第二ボタンを無くした事はまた忘れた頃にいいますね)
終わり。
フィンガーファイブの学園天国の歌詞を調べてて、「恋のダイヤル6700」から連想しました。
ご存知の通りフィクションです(笑)
テレフォンカードが分からない人はパパとママに聞いてね(笑)
あ、私も知りませんよ。令和ガールですので(笑)