眠れぬ夜は君のせいにして-Cafe SARI-
「(きれいだな…)」
カウンターの真ん中から少し右側に座る。決めているわけじゃないが。お店に寄るといつもこの椅子が空いている。
僕はここから、沙璃さんの横顔をみるのがたまらなく好きだ。
初めてこの場所に来たのは会社の新歓での帰り道、同期と一緒に飲み直そうと歩いている時に、偶然見つけて入った。ちょうどカウンターが空いていて僕たちは横並びで座った。あの時もこの席だった。
今も1人で沙璃さんに逢いに行くことが出来ない小心者の僕は、今日も同期を誘ってお店にいく。
…
「なあ、ケンジ!最悪だよな!生娘ってよ。都会に来た女の子を馬鹿にしてるよな!」
「そうだな」
「それによ、俺はにこるん好きだったんだよ。あの柔らかい感じ、さとみちゃんも可愛いよ。可愛いけど、人妻だしなぁー、」
「そうだな」
「まーったく、世の中、カネですか?マネーイズイケメンですか?って感じだよ」
「そうだな」
「そうだな。ってお前、人の話聞いてるのかよ。今まで俺が飲みに誘っても来なかったくせに、新歓の後から、飲みに行こうぜ。って言うから来てやってるのに」
「そうだな」
「おいおいケンジ、どーした?ボーっとして熱でもあるんか?さっきから沙璃さんばかりみて…。お?お?お?もしかして…おまえ〜」
「な、なんだよ!なんもねーよ!ちょいと考え事してたけだよ」
「へいへい、お前な俺たち中学からの付き合いだぜ、だいたいお前の考えてる事ぐらい分かるわ!」
「なんだよそれ」
「どうせ、沙璃さん、キレイだなー。付き合っている人いるのかなー。チューしたいなー。とか思ってるんだろ」
「ちげぇし!」
「はいはい、だいたい合ってるな。でもなケンジ、普通に考えてみろ。俺たち22歳、沙璃さんは、まぁ年齢知らんけど、歳上だぜ。確かにめっちゃ美人だし、優しいし、俺も好きだぜ。でもな、それは恋愛とかの好きとか違うだろ」
「まぁ…な」
「ほら、同期の夏実ちゃんなんてオッパイ大きいし、可愛いし良いじゃん。ギャルが良かったら加菜ちゃんもなかなかエロいぜ」
「サルだな、お前」
「ちげーよ、誰がヤリチンだよ。お前の事を思って言ってんの。」
「お前が密かに沙璃さんの事を好きなのも、1人で店に来れないチキンだから俺誘ってるのも知ってるんだよ」
「うぐっ、なぜわかった?」
「ばーろ、お前、友達舐めんなよ、舐めるのはオッパイだけにしとけ。」
「やっぱりサルだな」
「とにかく、お前が歳上好きだろうが熟女マニアだろうがロリコンだろうが、どうでも良いけど。沙璃さんはやめとけ、俺らには手が届くわけないだろ」
「そう…だよな…」
「な、俺達、若造は相手にされんよ。でもお前が凹むの見ながらビール飲むのは美味いからな。本気で好きだと思うなら、今度、1人で来てデートのお願いしてみろよ。」
「お前、応援してるのか、諦めさせようとしてるのかどっちだよ」
「どっちもだよ!まぁお前が決める事だ。乾杯しようぜ!うぇーい!」
「他人事だと思って…」
…
「ケンジ君達、楽しいそうね。なんの話してたの?」
「あ、沙璃さん、こいつがね、沙璃さんのこ…」
「ち、ちがうんです、乾杯しましょう!乾杯!」
「ふふ、いつも仲良しだね。羨ましいよ」
「ははっ、腐れ縁です。」
…
…
「よーし、帰るかケンジ。」
「なー、やっぱり歳上って無理かな」
「なんだよ、まぁ好きに年齢は関係ないと思うけどな。」
「俺、けっこうマジで沙璃さんの事、好きなんだよ。」
「だったら、本気で向き合ってみろよ。ただ、お前、単純に抱きたいとか遊びとかなら俺がブッ飛ばすぞ」
「分かってるよ…」
「沙璃さん、モテるだろうし。うかうかしてたら、他の奴に取られるぜ。って言うか、もう彼氏いたりして」
「だよなー、やっぱり俺なんかじゃ、釣り合わないよな…」
「でたチキン野郎!当たって砕けろ!ダメならダメで俺がいるだろ!」
「お前はいいよな、ポジティブで」
「お前みたいに癖がないからな、出されたものは全部食う。」
「猿だな…」
「ウキー!うるせー、もう一件いくぞ!明日の二日酔いなんて知るかよ!」
…
…
結局、5時まで飲んで風呂も入らんでワイシャツのまま寝落ちした。夢でも沙璃さんの横顔を見てた。
なんだろな、一時期的な感情なのか。アイツが言うように興味本位なだけなのか…。
俺がもう少し歳を取っていたら、沙璃さんとも普通に話せたかな。
今度、1人で行ってみよう。
ちゃんと話してみよう。
年齢とかそんなの無しにして、1人の人間として
「沙璃さん…俺、沙璃さんの事好きです。軽い気持ちとかじゃなくて、男として沙璃の事大好きです。」
「…沙璃さんの事、もっと知りたいです。俺と付き合ってくれませんか?」
なんて、言えるわけないよな…
歳の差は色々あるけど、楽しいよ。
金城蜜柑