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歯を失って、得たものは

天狼院書店ライティング・ゼミ、6回目の投稿は、不合格でした。
( ´-ェ-` )シュン

例によって、没ネタ公開します。
言い訳(^_^;)を、そのあとに。
読んで頂けたら嬉しいです。

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歯を失って、得たものは

歯が痛む。
噛んだ時だけ、少し痛む。
それが数か月続いていたが、気になるほどではなかった。
しかし突然、噛んでないのに沁みるような痛みが出てきた。
それがほんの1~2日で強くなり、疼く痛みに変わった。
これはマズイ。
早速かかりつけ歯医者に、久しぶりに電話した。
運よく翌日、予約が取れた。
診察室に入り治療用椅子に横になって、口の中を見てもらう。
先生が、歯を順に叩いた。
「これは?」「痛くないです」
「これは?」「痛くないです」
「これは?」「痛いです!」
「親知らずですね。久しぶりなのでレントゲンを撮りましょう」
画像を見た先生が言った。
「親知らずの隣の歯が、中で割れてます」
「!」
親知らずの隣は銀歯だ。銀歯の中の歯が、割れてる? 
「割れてる……割れてる……」あまりの衝撃につぶやく私。
先生は「隣の歯を取って、抗生剤で様子を見て、それから親知らずを取りましょう」と言った。
それはつまり、並んだ歯を2本、抜くということ? 
「嫌です! 他に方法はありませんか?」
そう私が望んだため、先に抗生剤で様子を見ることになった。
3日分の抗生剤と、3回分のロキソニン(痛み止め)を会計時にもらう。
痛みが思った以上に強くなったので、ロキソニンを飲む。
ほどなくして、疼く痛みは治まった。
その状態で、ツナとキュウリのマヨネーズ和えを食べた。
薄切りキュウリを噛んだだけで、ツキーンと痛みが走る。
こんなことは初めてだ。
問題の歯を出来るだけ使わないよう、口の中で食べ物を移動させて噛む。
が、なかなか難しい。これではお粥しか食べられない。
夜もロキソニンを飲まなければ眠れなかった。
もうダメだ。
この痛みが抗生剤で治るとは思えない。
抜いてもらおう。
次の予約はその4日後だったが、翌日に急患で診てもらった。
私は「割れてる歯は戻らないですもんね」と、つぶやき受け入れる。
口を開くと、また先生が歯を叩いた。
「これが隣の歯です」「痛くないです」
「これが親知らず」「痛いです!」
「こっち側も?」「痛いです!」
その後、何を話したか覚えてない。
とにかく麻酔の注射が痛かった。
麻酔が効くのを待っている間も、だった。
抜いている時、その場所自体は痛くない。
しかしその近くが、ずっと痛い。
昔、別の親知らずを抜いた時とは違う痛みが、確かにあった。
それは「抜いていない親知らず」のせいとしか思えなかった。
処置が終わった後、先生が言った。
「また痛かったら明日来てください。続きをします」
続きとは、親知らずを抜くこと? 
「もし2本抜いたら嚙み合わせがおかしくなりますよね? そうしたらどうなりますか?」
「そうなったら入れ歯、ですね。だから出来るだけ親知らずは残したいです」
「! !」入れ歯! 入れ歯! ! 
なぜ抜いてからそれを言うの? なぜ抜く前に説明しなかったの? 
この、すぐにでもロキソニンを飲みたいくらいの痛みが、抗生剤で治るとは思えないんですが? 
先生に言えなかった言葉を心の中で繰り返しながら、家に帰った。
入れ歯……入れ歯……。部分入れ歯だろうけれど、入れ歯……。
抜いた歯は二度と戻らない。
もしも抜く前に知っていたら、もっとしっかり抗生剤を飲んだかもしれない。
なぜちゃんと説明してくれなかったのか。なぜ……。
もう15年以上は通っている、かかりつけなのに。
昔はもっと丁寧に、事前にレントゲンを見せながら説明してくれたはず。
それとなぜ「叩いても痛くない歯」を抜いて「叩くと痛い親知らず」を抜かなかったのか? 
もしかして、親知らずだけを抜く手だって、あったんじゃないか? 
悲しくて辛くて泣いた。
ひとり暮らしの私だが、ひとりでは耐えられなかった。
いつもLINEでやりとりしている友達に、泣きながら電話した。
止血用のガーゼを口に入れたままだった。
モゴモゴと聞き取りづらかっただろうに、彼女はずっと話を聞いてくれた。
「電話をくれて嬉しかった」とも言ってくれた。
ひとしきり話して「私、頑張るね!」と電話を切った。
口の中のガーゼを取り出し、テレビやスマホを観る気力もなく、ロキソニンを飲んで横になる。
いつの間にか眠ってしまい、気付いたら深夜1時。
ハッと起き上がった。
今日は月に一度のチャットの日だった。
好きな小説繋がりで知り合った、15年以上の付き合いのある、でも顔も年齢も知らない友達とのチャット。
抜歯と入れ歯の衝撃で、すっかり忘れてしまった。
やり取りしている掲示板に事情を書き、謝罪する。
翌日、ねぎらいの言葉とともに、気持ちはわかるから約束を忘れたことは気にしなくていいと書いてあった。
さらに、本人やご友人の体験談を元に、セカンドオピニオンを勧めてくれた。
考えてみようと思った。
五十肩が辛かった数年前に縁があった、気功の先生にもメールで相談した。
先生は大病された時、客観的にみれば「医者に蔑ろにされた」と思える経験を、お持ちだったからだ。
暫くして先生の奥様から、真心のこもった長文のメールが届いた。
少し落ち着いてから、実家の母親にも電話した。
とはいえ80歳だ、余計な心配はかけたくない。
だから入れ歯になりそうな話はしなかった。
しかしやはりそこは親、何かあったと感じたのだろう。
宅配便で果物や野菜を送ってきてくれた。
ふと思った。


……幸せだなぁ……


泣きながら突然電話をしても、話を聞いてくれる友がいる。
約束を忘れても、気にしなくていいよと励ましてくれる、顔も知らない友がいる。
数年前にたった2回会っただけなのに、メールで真摯に相談に乗ってくれる、人生の大先輩もいる。
何も言わなくても「何かあったな」と感じ、荷物を送ってくれる母親もいる。
これが幸せでなくてなんだろう。
正直、心から「私は幸せ」と思ったことは、あまり記憶にない。
もちろん日々の衣食住が足りていること、大きな災害に遭ったことが無いことを「幸せ」とは思う。
けれど大体が「幸せと思わなきゃバチが当たる」レベルだ。
意識して思おうとしただけだ。
でも今回は違った。
この尊い気持ちを得られたことこそが、歯を失ったことの意味なのだろう。
抜歯して3日後が次の予約だったが、その間にロキソニンは必要なかった。
お粥でない普通の食事もできた。
ほんの少し、違和感と痛みは感じるが、気にするほどではない。
そのことを先生に伝え、「抜歯した理由」と「今後の治療方針」を聞いてみた。
レントゲンで親知らずは、それほど悪い状態ではなかったらしい。
なのになぜ痛むのか。
それは割れた歯の影響だという。
だからそれを抜けば痛みは治まる。実際に治まった。
今残っている違和感は、抜いた跡の傷などが原因だから抗生剤で対処可能。
親知らずを残せばブリッジが出来る。費用は2万円位。
あんなに周りを巻き込んで大騒ぎしたのがバカみたいと思うほどに、先生は穏やかに淡々と教えてくれた。
それを先に説明してくれてたら、不安にならなかったのに。あんなに泣かずに済んだのに。
という言葉は、またも口に出せなかった。
でもいい。私は幸せなのだから。
説明には納得できたし、セカンドオピニオンはせず、ここに通おう。
これ以上、抜かなくて済むよう、歯をもっと大切にしながら。
そして、もしもまた、悲しくて辛いことに出会った時は。
「幸せ」を感じた、この日のことを、思いだそう。

≪終わり≫

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最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

これは先週、実際にあった出来事でした。
自分自身が忘れないように、記録に残したかったのです。
いうなれば「未来の自分」のために書いた記事でした。
だからでしょうか「第三者のメリット」が無いそうです…。
そういう文章は「ブログに書け」ってことですかね…。

書いてて自分で。゚(●'ω'o)゚。うるうるしましたから、何かしら読者にも「感じるもの」はあるのではないかと思ったのですけどね…。

ポイントとなる一文が目立つように今回はわざと「改行」を無くし、短い文を繋げました。これは、とある天狼院書店のWEB記事のマネなのですが、その点の指摘が全くなかったのが残念。

「丁寧過ぎる」自覚はあります。
確かに何を書いても3000文字近くなり、どうやって短くするか苦心してますから。でも「この記事のどこをどう削ったら、もっとよくなるか」までは教えてくれないんですよね…。

次は2000文字前後で終わる記事を、目指してみます。

またお読みいただけたら嬉しいです。実里でした。


※後日談※ 2021/8/9追記
ブリッジについて自分なりにネットで調べたところ、
「両側の支える歯に負担がかかり、7~8年ほどしかもたない。その時は両側も抜く必要がある」
という大きなデメリットがあることを知りました。
(それを克服した技術がインプラントだそう)

それを先生に話したところ「では歯を削らなくて済む、部分入れ歯からやってみたらどうですか?」と勧められました。

なんにしろ抜歯した歯に骨が見えてきてからでないと、何も始められないということだったので、1-2か月経ってから、抜歯した奥歯の1本分だけ、部分入れ歯を作ろうと考えています。

…しかしやはり「聞かなければ教えてくれない」先生であることを、残念に思いました…。
部分入れ歯を作った後は、もしかしたら他の歯医者を検討するかもしれません…。

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