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[カレリアの口承伝統] ことわざ:おとぎ話が言葉を語りつくすことはない(Šuarnat ei šanuon lopu)

以前、「仕事」にまつわることわざを紹介した際に書いた通り、カレリアには膨大な数のことわざが言い伝えられてきました。

今回ご紹介するのは「言語, 言葉」にまつわることわざです。

カレリアの口承伝統が豊富なのは、人々が言葉の力を信じていたから。
「言葉の力」ですべてを制すと考えられていたカレリアにおいて、日々の習慣や戒めを示すことわざにも、やはり「言葉の力」がこめられています。

ことわざ

KIELI/PAGIN(リッヴィ方言)
KIELI/PAKINA(ヴィエナ方言)
言語/言葉

1.Ilmal pagižet - ilmu kuulou, pertis pagižet - perti kuulou.
 外で話せば通りが聞き, 家で話せば小屋が聞く

2.Hyvä edäh kuuluu, paha vielä iemmä.
 善行は遠くにまで聞こえ, 悪行はさらに遠くまで至る

3.Ei niin šauva šatata, kuin šana šatattau.
 棒は言葉ほど痛くない

4.Enemmän korva kuulou, kun šilmä näköy.
 耳は目で見る以上に聞く

5.Kieli libie, niin eliä kebie.
 言葉が活気に満ちていれば, 人生は楽になる

6.Hyvä sana kallehembi kuldua.
 金言は黄金よりも価値がある

7.Sana maksau sada rubl'ua.
 言葉には百ルーブルの価値がある

8.Ei kaikkii pajoloi sua pajattua.
 すべての歌をうたいつくすことはできない

9.Šuarnat ei šanuon lopu.
 おとぎ話が言葉を語りつくすことはない

10.Sananlasku igän eläy.
 ことわざは生き続ける

採取地

  1. アウヌス地区のパッチュ居住区(リッヴィ方言)

  2. トヴェリ州スピロフスキー地区のオソスヤ村(トヴェリ方言)

  3. トヴェリ州リホスラヴリスキー地区のトルマッチュ村(トヴェリ方言)

  4. コンドゥポホヤ地区のピストヤルヴィ村(南カレリア方言?)

  5. トヴェリ州スピロフスキー地区のプアシンコイ村(トヴェリ方言)

  6. コントゥポホヤ地区のジュスタルヴィ村(ヴィエナ方言)

  7. アウヌス地区のコトゥカトゥヤルヴィ村(リッヴィ方言)

  8. アウヌス地区のマグラトゥ村(リッヴィ方言)

  9. カレヴァラ地区のウフトゥア村(ヴィエナ方言)

  10. プリアザン地区のペルドネ村(リッヴィ方言)

解説

  1. 日本語で言う「壁に耳あり障子に目あり」です。
    正確に訳せば「外気で話せば-外気が聞いている, 小屋で話せば-小屋が聞いている」となります。

  2. 「悪事千里を走る」に近いでしょうか。
    言葉の翼は、悪い事柄に関してはより遠くへ羽ばたくようです。

  3. 英語のことわざで有名な「Words cut more than swords/言葉は、剣よりもよく切れる」と同じような意味ですね。
    カレリアの村では剣ではなくて、棒切れのようですが。

  4. 「目は口ほどに物を言う」とあべこべのような感じですが(いや、意味は違うか)。
    目で見たもの以上に、耳から得た音情報のほうが物事の理解に貢献するようです。

  5. 言葉を操る人=言葉の力を操る人は、生きていく術を心得た人なのかもしれません。

6~7.
「時は金なり」ならず、「言は金なり」。
言葉を大事に思う気持ちが伝わります。

8~9.
詩歌も歌謡もおとぎ話も、カレリアの豊かな口承伝統の一つ。
即興的に吟じられ、歌われ、語られたこれらの数は膨大で、とても1人の人間が歌いつくしたり、語りつくしたりすることはできません。
言葉に終わりはなし。
詩歌も、歌謡も、おとぎ話も、いくらでも言葉の力を以て量産していくことができるのです。

10.ことわざに限りませんが、口承伝統は不滅です。

つぶやき

言葉にまつわることわざも多くありますが、日本語でも同じような表現があるもの、分かりやすいものを選びました。
6~は、言葉の力を信じるカレリア人らしい表現ですね。

まったく関係ありませんが、先日フィンランド映画『コンパートメントNo.6』を見てきました。映画館で映画を見るのは7~8年ぶり。
舞台は1990年代のモスクワ~ペテルブルグ~ムルマンスクを結ぶ寝台列車で、ペテルブルグ~ムルマンスク間はカレリア共和国内を走行しています。
列車が一晩停車するのは、首都のペトロザボーツク。
しばらく訪れることが叶わない彼の地と、友人たちがふと頭をよぎりました。

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