指輪物語において、トールキンはあくまで第一人者なのではという私見
「力の指輪」炎上したってよ
指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)のAmazon版「力の指輪」が物議を醸しているようです。
自分はまだ観れてないのですが、エルフ役で黒人俳優を起用したっぽいですね。
力の指輪を観れてない関係上、批判意見もあまり見れてないのですが、ぱっと見、トールキンの描写を重要視しすぎているのではないかと思いました。
すごい翻訳者としてのトールキン
もちろんトールキンは作者なのですが、指輪物語中での扱いはエルフ語あるいは共通語からの「翻訳者」の一人です。
「歴史上の真実」がまずあって、それをエルフが記録、さらにビルボが翻訳したものが赤表紙本に載せられ、多くの写本が作られた中の一つをトールキンが手に入れて本にしたという設定のはずです。
例えばすごい力を持っていた国が海に沈んだという「歴史上の真実」は、トールキンの話の中ではヌメノールが相当します。しかし他のルートをたどり、例えばアトランティスやノアの方舟のような別の神話になったりもしている、という設定なのです。
エルフの存在のおかげで他より真実に近いかもしれませんが、それでもワンオブゼム、たくさん枝分かれしたうちの一つが指輪物語なのです。
つまり、トールキンはかなり余白というか、「解釈の余地」を広めに用意してくれています。
他の人が筆を振るう余地を残しておきたい、とも手紙で語っていたと思います。
他の筆が振るわれる余地
トールキンはエルフを見た目上白人に近い種族だと考えていたでしょう。しかし同時に、それはイギリス人・白人たる自分自身のバイアスがかかっているであろうことを、おそらく自覚しています。
ホビットを例に出します。
トールキン作品の中のホビットは、かなりイギリス人っぽい種族です。
紅茶好きだったり、ゴルフ好きだったりします。
しかしトールキンは、翻訳する際はホビット的なものを母国語に、それ以外を異国風に訳すように頼んでいます。
瀬田・田中訳では、例えば「髪吉家」とか「袋小路屋敷」とかいうふうに、ホビット的なものを日本語に訳しています(すごく大変だったと思います)。
つまりトールキンは、自分の筆では「ホビット=イギリス人」になることを自覚した上で、他国では「ホビット=その国の人」になるよう改変することを許しています。
少なくとも自分(筆者)の解釈ではそうです。
であるならば、エルフの見た目が「白人的」であるのをイギリス人トールキンの限界として処理し、今風(「ポリコレ的」)に多人種混合構成にするのも、少なくとも無しではないんじゃないかと思いました。
まあ、トールキンの残したスキをあえて突くようなやり方だとは言えますが…
南方と東方
ついでに、トールキンの余白の大きさのエピソードとして、あれだけいろいろあった中つ国の歴史もほとんど北西部のことしか分かっていないことが挙げられます。
北西部のエルフは湖の近くで目覚めて、3つの氏族に別れました。
しかし南部や東部に他の氏族がいないとも限らないし、そっちは全然描写が無いので黒人や黄色人種である可能性はまだまだあります。
ただ今回のドラマ版にはあまり関係無さそうなので、これはついでの話です。
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