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名の呪縛

私の名字はとても珍しい。
何度も聞かれ、何度も間違われ、何度もその意味を問われる。
自己紹介の度、何十回、何百回も繰り返し説明し続けた。
小さい頃からちょっとコンプレックスで、
面倒くさいから偽名を使ったり、適当にあしらったりもした。

***
改めまして、「孕石」と申します。
読み方は「はらみいし」。
全国で800人ちょいくらいしかいない珍しい苗字。
「孕」の漢字は、「子供を孕む、意味を孕む」のように使われる。
そんな意味からか、おじさんにニヤニヤされたり、
おもしろい(funny)名字だと言われたりも。
なんか嫌な感じだなあ…と思うこともしばしば。

名前についてどうも自信がなかった。
珍しいことに慣れてしまい、自己紹介の度、
だらだら定型文の名字説明をしていた。

8月頭、南伊豆に行ったときに出会った人が私の名字に興味を持った。
ものすごく純粋な興味で「孕石」の意味や希少性を問われた。
久々に気持ちいい感じに聞かれたので、一緒にスマホで調べてみた。

…あれ?私、全然「孕石」のこと知らないわ。

その足で祖父の家(静岡県金谷)に行く予定であった。
ちょうどいい。ルーツを探そう!

***
祖父の家(静岡県金谷)から車で40分ほどのところ、
静岡の掛川に、孕石神社(天神社)がある。
諸説はあるが、必ず何らかのゆかりがある場所だ。
私が覚えている限りでは、幼少のころ1度行ったことがあり、
それっきりである。

とても小さな神社で、ひっそりとそこにある。
社殿の土台はさざれ石の大岩盤。
大小さまざまな卵形の小石を含むので「孕石」と呼ぶ。

さざれ石とは、そう、『君が代』に詠まれている、
あの“小石(さざれいし)”に相当するとのこと。
「孕石は太古のさざれいしが1800万年にわたる長い年月(千代八千代)を重ね、互いに結合してできた岩(いわお)とみなすことができます。丸々と愛らしい大小の礫達は、いわおの中に育まれた胎児を連想させ、孕石の名が生まれたのでしょう。」

あっぱれ、鳥肌ものである。

***
今まで知らなかった、知ろうとしなかった孕石の語源。
名前に自信がなかったのは、知らなかったから。
上辺だけの意味だけで、なんとなく嫌悪感があったから。
知らないことって本当に罪深い。
ちゃんと知ることで、ものの見方や考え方がかわるのだなと。
そして、人の知ろうとする興味・好奇心って
とても大きなきっかけになるんだなと。

26年経ってやっと私の名に自信がついた。
ちゃんと大切にしようと思った。

平成最後の夏、名の呪縛から解放された。


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