沖島を歩いて
滋賀県近江八幡市、琵琶湖に浮かぶ沖島は、面積は約1.5㎢程の小さな島で、日本で唯一の淡水湖の有人離島として知られている。たしかに、風が吹いても潮の香りはしてこない。ただ秋の匂いが島全体を包んでいるだけだった。湖の上の島に立っているというのは初めての経験だったけれど、陸地に近いせいか、妙な親しみを抱く、そんな島な気がする。
今回沖島に向かったのは、「湖の離島」に特別惹かれたわけでもなかった。波の音が聞きたい。揺らぐ水面を眺めたい。船に乗って少しだけここから離れた場所に行きたい。そんな思いが強くあったから、最初はどこか海沿いの町にでも行こうとしていたけれど、考えてみれば琵琶湖だって海と見違えるくらいの壮大な水面が広がっているのだから、と何となく気持ちがこの日本一の湖の方へ流れていってしまった。
沖島は、穏やかな漁港風景と狭い路地で構成されている。緩やかな時間の中のあらゆる瞬間に、島で暮らす人たちの生活が現れる。迷路みたいな道をただ歩いて、目の前にぱっと水面が開けてくる場所に何度か行き着く。この島の主な交通手段である荷台付き三輪車の向こう側に、琵琶湖の水面が揺らいで、あちらへ誘われる。
路地を抜けた先の開けた道で、釣り人が座るためのものなのだろうか、小学校で使われていたような椅子を見つけると、一体誰が置いたのだろうとか、いつからそこにあるんだろうと、いろいろ想像を巡らすのが楽しい一方で、湖を背にして一つだけひっそりと佇むその椅子に少しだけ寂しさを感じたりもする。
水辺の暮らしに憧れながらも、普段は内陸の街に窮屈に押し込められて生活していると思うと、時々歯止めがきかなくなって、思い立ったように出かけてしまう。小さな島の内側から広大な湖を眺めて、ただひたすらに歩く。そんな秋の一日だった。