温暖化

 ラジオパーソナリティーが涙ながらに結婚を報告している。時間を昼の13時を今回った。コードで繋がれていないイヤホンは音源を曖昧にして、さも自分に語り掛けている錯覚に陥りやすい。昨日、優香と電話をしていて勧められた動画があった。ある男性が彼女の為に洋服を作る動画だった。軽快な音楽とともに作業工程が映し出され、工夫したであろうカメラアングルは彼氏の頑張りと献身さが良く伝わって来た。プレゼントを貰った彼女は大いに喜び満面の笑みを浮かべながらポーズを幾つもとる。見終わったあと、僕には徒労感があった。
「僕が幸せになる事でリスナーが離れて行ってしまう恐怖があって…、この数日すごく悩みました」
 僕はラジオを一旦止めた。イヤホンは外さない。簡易的な耳栓にもなる。小さくなった生活音は心地よかった。「あなたは冷たい人間ね、でもそこも好きよ」そんな事を優香は良く口にする。優香は僕の冷たさを掘り起こし、太陽光への拒絶反応を見て楽しんでいるのだろう。僕は以前に「優香も冷たい人間だからこっちの気持ちが分かるんだろう?」と聞いたことがある。その時優香はこちらを見向きもせずに「そうね、最近あったかすぎるからあなたで涼をとってるの」と言った。本棚に並んだ本を眺めた。彼らはいつもクールだ。こちらから話しかけないと何も言わない。ただ彼らは時間をくれる。そして窓から入り込む香りがなく冷たい風に僕は身を沈める。

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