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page 63 Story of 永遠 9/2
凪が美月ちゃんの事を“まだ自分を解き放てない”と言ったのは、なんだか物凄くよくわかるような気がした。
言葉を選びすぎて、真意を伝えるを怖がってるような印象を受ける時が有るから…。
凪 「永遠が様子見に来てくれて良かったよ。
仕事、押さないで終わったんだね」
永遠「ああ。まあ、何とか間に合ったな」
凪 「美月ちゃんの事、送れるんだろ?」
永遠「そのつもりで車で来た」
凪 「もう少し詰めてく感じで、
もう一回くらい合わせられたらいいよね。
出来たら今度は来れるメンバーも入れて」
美月「私は録音聞いて練習しておきます。あ!」
凪 「ん?」
美月「録音、止めてない!」
美月ちゃんは、慌ててiPhoneを手に取った。
俺は「一人で帰れますから」と言って、遠慮する美月ちゃんを半ば無理矢理車に乗せる勢いで車のキーを開けた。
永遠「泣いてたのに、一人で帰せるかよ」
美月「だから、あれは感動の涙だったので大丈夫。本当に気にしないで」
永遠「自宅に帰る通り道だから素直に乗りなさい」
美月「あ…、りがとうございます…、」
俺の性格上、泣いてた女の子をこんな夜道に一人で帰すとかマジで無理。
助手席に乗った彼女の横顔に流れる景色の光が反射して流れてく。
ぼんやりと窓の外を見ながら何を思ってるの?
美月「ピアノを始めたきっかけは…」
目線を窓の外に向けたまま、美月ちゃんはポツリポツリと話し始めた。
美月「子供の時、口下手で…あまり話さなかった私を心配した母が、楽器を勧めたの」
永遠「うん」
美月「友達も少なかったから、ピアノが友達になった」
永遠「へー…」
美月「一人で居るのが好きだったし…私はこういう性格なんだなぁって思ってた」
小さな声で話してるけど、以前のような“堅苦しさ”の無い話し方に変わってる。
美月「でも、さっき凪さんのギターや歌と合わせて演奏してね…、私……、
本当は寂しかったんだって気が付いてしまったんだと思う」
・
それ、何だかすげー分かる気がした。
本当の自分の本音って、誰かと関わってみないと分からないもんだと思う。
・
永遠「話の焦点から離れる質問になったらごめんね。
美月ちゃんは、青井旬さんが亡くなって…ちゃんと悲しめた?」
美月「え?」
美月ちゃんは思いがけない事を聞かれて、驚いたように俺を見た。
美月「どうして…?」
何故その話が出てくるのかと言うように呟いた。
永遠「違ってたら、本当にごめん。あのさ、
美月ちゃん、旬さんが亡くなる事、何となく先に分かっていたんじゃないのかなって…
前から思ってた。
ほら、自分の転機は夢で見て来たってそう言ってたからさ…」
美月「…永遠くん…すごい推理力…」
ハンドルを握る手に窓の外を流れてくライトが繰り返し通り過ぎる。
美月「……うん。 そうなの……」
永遠「…その話、少し聞いたらダメかな、」
長い話になるだろうし、
もしかしたら話したくないのかもしれない…。
けど、根本はその話に有るように感じるから、そこから向き合わないと何も始まらないって思う。
永遠「ちょっと…行き先、自宅からドライブに変更していい?」
俺は彼女の返事も聞かず、にウインカーを上げて車線変更をした。
このダークブルーの空の中を走り抜けるスピード感が、まるで時空を遡ってるような錯覚を覚えた。