page 37 Story of 了 8/19
了「あれ?…美月ちゃん?」
スタジオの扉を開くと隅からそっと見守る背中が目に入って来て、きちんとスーツを着こなした彼女の横顔を瞬間的に見つけてしまった。
美月「柊さん!やっぱり会えると思ってました」
会えると思っていた?
彼女は少しだけ笑ってから、慌てて「先日はご馳走になりました」と言った。
了「いや、こちらこそ深夜に連れ回しちゃったなーって、後んなって思いました。
でもまた今度是非。今日は撮影の見学?」
美月「はい。柊さんも?」
了「うん。たまたま隣のスタジオで雑誌の撮影だったんだけど、スタッフから永遠の演奏撮りが有るって聞いて…演奏するなら聴きたいなって」
美月先生は、小声で話す俺の話を真剣な瞳で聞きいた後小さく頷いた。
音楽室のセットの中、
ピアノの位置確認をしたりライトが当たる場所確認をしたりするスタッフ達の間から俺を見つけた永遠がこっちに向かって歩いて来る 。
永遠「え…了?」
了「見学させてもらいますよ
永遠「おお!やっぱ、会えた」
了「 は? 」
美月ちゃんも永遠も“やっぱり会えた”と口を揃えて言ってる理由は何故なんだ?
俺がこのスタジオに来ようと決めたのは、ほんの30分程前なのに…。
一瞬、永遠の視線が優しく彼女を包み込む。
永遠「まずイメージして…それから弾くんでしたよね?」
美月「はい」
彼女の声に重なるように、そろそろ演奏の準備をお願いしますというスタッフの声が飛び込んで来た。
了「永遠、いい演奏出来たら、先生がご褒美用意してくれるらしいよ」
「えっ??」と、言語化出来ない声で美月ちゃんが隣の俺の言葉に振り向いた。
永遠「それ、マジな話?」
了「考えておいてって言ってた」
美月「ちょっ…、
言ってないじゃないですか!そんな事!」
永遠「それじゃ頑張んないとな」
お互いさ、
気がついてるんだか気がついてないんだか知らないけど俺には惹かれあってる様にしか見えないから、もう適当にくっついちゃえばいいのにと思う。
まぁそこに色んな事情が有るとしても、シンプルに本音で動けばいいのになって…俺はそう思うけどね。
…ま、この2人にはそれが出来ないだろうけど。