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page 62 Story of 凪 9/2
スタジオのライトのスポットライトの下、
俺は座ってた椅子の背もたれを逆に置き変えて、椅子に跨って、背もたれを両手で抱きしめる格好で座った。
ガタッ…
凪「あ、永遠も座って」
永遠は色々言いたい事をとりあえず胸に仕舞うというような表情をして、勧められるまま椅子に座った。
そんな警戒しなくて大丈夫だよ。
お前から大事な先生を奪ったりしないから。
凪「…って言っても、
今からする話は信じても信じなくてもいいから」
永遠「ふざけんなよ。何年一緒にいると思ってんだ!お前の話は全部真理だって分かってっから、そんな前置きしないで早く話せよ」
凪「怖っ、まあそうイラつくな。けどそうだな…
このメンバーに前置きは必要ないね」
口を尖らせて横を向く永遠に信じなくて悪かったという想いが沸く。そんなつもりで言ったんじゃなくて“奥深く理解する”事は難しいよという意味で前置きしただけだった。
凪「…、過去世で俺と美月ちゃんは、人の浄化を促すような仕事をしてたっていうのは前にも話したと思うんだけど…」
二人は黙って頷いた。
凪「さっき二人で演奏した事で、過去の記憶が共鳴してしまったみたいなんだ」
美月「私も…本当に同じような感覚を味わった」
凪「…で、そういうのって誰しもが有る事で、別に特別な事じゃないんだけどね…」
それって、気づかない内に起きてる事なんだ。
永遠がそれは頷けないというように宙を見た。
凪「どうやら美月ちゃんは、自分を深く閉じ込めるっていう質の魂のパターンを持ってて、それが元で…過去世では…」
美月「病にかかった… でしょ?…違う?」
あ、その過去世の記憶は、もう思い出していたんだな。
凪「うん。そうだったみたい。
元々、魂を浄化させる仕事をしていたから“自分”てのが在ってはならなかった。
“我”ではなく“無”で無ければ務まらない仕事だったからね。
けど、今生は自分を開花させて生きる事を、目的に生まれて来てるんだと思う」
俺の中の過去世の俺が、それを強く訴えて来て現世の俺の身体まで使って訴えて来たくらい、凄く伝えたかったメッセージに違いなかった。
美月「……、うん」
永遠「大丈夫?」
彼女は、泣きたくて泣いてる訳じゃないのにっていうように無表情で涙を流し続けた。
凪「音楽にも、もっと気持ちを乗せてけばいいんじゃないかな。いつも…無意識に聴いてくれる相手の気持ちを汲んだ演奏してるよね?」
過去世から引き継いだ癖だからすぐに外せるもんでもないけどさ。
美月「私が演奏中泣いたのは…」
凪「嬉しかったでしょ?本来は、あんな風に自分を喜ばせる為に演奏していいって身体が理解したんだ」
凪「時代が“令和”に入って、
実は…自分が喜ぶと、その喜びの波動が伝わってくシステムに地球自体が大きく変化したんだ。
今生は楽しんだもん勝ちで行けって事じゃない?、あ、もちろん、俺たちもそれは一緒」
俺は椅子の背もたれに顎を乗せて、だらけたポーズで話を続けた。
凪「美月ちゃん、もっとリラックスしていいよ。悲しい事は悲しいって思っていい。
やりたい事は遠慮しないでやる。
怒りたい時はプンプン怒って、
寂しい時は…寂しいって言ったら助けてくれる仲間って案外ものすごーーーく、近くに居たりする」
意味深に永遠を見てみるけど、永遠は涙が止まらない美月ちゃんが心配で俺の意味深発言に全く気付いてない。