
page 23 Story of 永遠 8/11
永遠「先生が子供の頃に習ったピアノの先生ってどんな人だったんですか?」
グラスに口をつけて冷たく冷やされたお茶を飲む。爽やかなお茶の香りが広がって心地いい。
美月「私の習ったピアノの先生は、
すっっっっごく厳しくて恐~い先生だったの。
練習して来なかったんなら帰りなさいって、
そう言われて帰された事、何度有った事か…」
永遠「へー」
美月「でもね、
私が練習出来なかった事には私なりに理由が有ったの。私はへ音記号の音符を読むのがニガテだったんです。
だけど先生が恐くて質問が出来なかった」
窓の外に視線を向けるようにして彼女は言った。
美月「だけど、そんな経験が有って良かったなと今は思ってるんです」
永遠「どうして?」
美月「講師になって子供に教える場面で生徒さんが練習をして来なかった時、何が理由なんだろうって想像する事が出来るから…」
・
お茶の香りが窓から見える夕闇に混ざる。
瑞々しい深い青が夜の始まりを予感させている。
・
美月「榊さんはそういう事、有りませんか?」
永遠「そういう事?…」
美月「一見、辛い経験だったけど、
後から考えると必要なステップだったなって思う事」
永遠「有りますよ。
今のanswerになるまでにやっぱり色んな経験をしてきたから…
それのどの部分が抜けても今の俺らはいなかったなと思ってますしね」
美月「私…思うんです。
偶然や意味の無い事はこの世に無いって…」
それは、この前言っていた事と同じ事を言っているんだろうな。
美月「起きる出来事には全て意味が有って
少し大変だなって思う事も、
実は過程…ステップでしかないというか…」
永遠「それ、わかるな…分かります」
青井先生の言ってる事は感覚として解っていた事だったので、言葉として整理されて頭に入る感覚が心地良かった。
けど、そんな思考になった過程に、青井旬の亡くなった過去が見え隠れしているようで少しだけ胸が痛んだ。
ランプのオレンジ色の光が、部屋を柔らかに包み込んだ。