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17杯目



麗 「1日早いけど、これ、もらって」
レン「ありがとう」

麗さんは、小さな箱を俺に手渡した。
そう言って、先輩の麗さんは、照れくさそうに
ショートカットの髪に触れた。

「明日のバレンタインデーは、シフト入ってないから早めに渡したくて」


他の同僚にも渡しているのを見たから、特別な想いが込められてないと思うけど、やっぱり嬉しい。

レン「あれ、見て」
2階の踊り場通路から見下ろすラウンジに、今日はやたら女の子率が高い。

バレンタインデーを明日にひかえた今日、まだ控え室に居るピアノ王子待ちって感じかな。

明日はバレンタインデー限定のケーキが出るとかで、売り上げに貢献してる彩人は、ホテルのマネージャーからも受けがいい。

レン「なんか、アーティストの追っかけみたい」
麗「人気あるもんね、由利君」
レン「だね、」
麗「女の子って、ああゆうの好きだよねー」

レン「ああゆうのって?
ていうか、麗さんも女の子でしょ?」

麗「もうじきアラサーに仲間入りのシングルマザーの私を“女の子”に入れてくれてありがと」

麗さんは、あっけらかんと言葉を放った。
裏表が無くて気さくな感じが、話しやすい。

麗「あの子、キラキラ王子のふりして、ちょっと毒性を持ってそうじゃない?
優等生の顔に本性を隠してるっていうか…
実は裏では、何か謎を隠してそう…的な」

レン「ふーん、女の子ってそういうの好きなんだ?」

麗「うーん上手く言えないけど、優しいだけじゃ物足りないのよね。でも冷た過ぎるのも恐い」

彩人の“外見”や“ピアノ”ってワードを出さないで
本人を語る所に『さすがだな』と思う。

人って一見、相手の外見や持ってる物に惹かれてるようでいて、実は潜在意識の中で全ての要素を第六感みたいな部分で見通してるって、
大学の時、心理の教授が講義で言ってたっけ。
なんか、その話に少し似てる。

レン「裏…ねぇ」

それは何となく俺も感じてた。
人当たり良く見せてんのは周りの作ったイメージの期待に応えてるだけ…っていうのかな…

笑顔の裏に隠してる影のキーは、
案外“窓際姫”だったりしてな。

麗「人気のある男の子に群がる辺り、
実は女子の方が“ハンター”っていうか…」

レン「ふーん…、」

お、・・彩人、出てきた。
あ・・・つまずいた(笑)しかも何もない所で…

クスクスッ
麗「ああいう所!!」 
レン「ん?」

麗「ああいう隙の有る所も“ハンター”にとっては非常にオイシイ」
レン「はぁ!?」

麗「だって、
ちょっと隙がありそうな方が捕まえられそうな気がするじゃない?」

レン「ああ、なるほどね、」

麗「だから分かるんだなぁ……、あの“窓際のお姫様”が執着しちゃう訳が」

麗さんが指差した方から“窓際姫”が現れた。
多分、彩人も気がついてる。

春色のプリーツのスカートの彼女が舞台に上がって役者は揃った。



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