23杯目
俺がピアノの演奏する土曜日と日曜日には、美咲が必ず来てくれていた事を知っていた。
今日2月14日バレンタインデーは、美咲の結婚記念日でもある。
だから、彼女は来る訳ないって思いと、来てほしいって気持ちが頭の中で戦っていた。
今日のこの空間には、チョコレートと、コーヒーの香と沢山の笑顔が溢れている。
バレンタインデーに相応しいスタンダードなナンバーのマイ・ファニー・ヴァレンタインを、演奏の1曲目として弾き始めた。
パチ
パチパチ…
ピアノの椅子に座った途端に拍手が起こる。
俺の仕事はコンサートじゃなく、BGM演奏だから拍手は必要ないのに…
・.゚。...゚゚゚゚゚゚♪
じゃ、 必要な物って何だろう….。゚。・・・・・♪
そこのカップルに聞いたら“パートナー”って答えるだろうか、
♪…………・。゚.
いつも来てくれてるセミロングの子に聞いたら
“夢”って答えそうだな…
‥♪.゚。・.::.....・...・
そこの眼鏡をかけた真面目そうなお母さんに聞いたら“子供”って答えるのか?
:.。゚・・♪……、
それじゃ、俺にとって、必要な物を自分自身に問うたらそれは ・゚。.♪……、゚。・。 ……♪
……‥.・‥…♪ それは…
その“答え”が…美咲が階段を上って現れた。
震える指が鍵盤を走る。
.。・゚・。.♪:*・゜゚・*:.。. .。.:*・
こんなにも好きだった。
こんな風に、姿を見ただけで泣きそうになるくらい好きだった。
美咲が現れたこの1年間、ずっと心が叫んでた。本当は追いかけて捕まえて抱きしめたかった。
俺の傍から離したくなかった。
離したくないって言いたかった。
必死だった。
腕を
足を
目を
美咲に向けないようにする事に俺は、俺はただ必死で…。