page 82 Story of 美月 9/18
美月「晃社長もね、違う切り口だけど同じ事を言ったの!今後は軽率な行動を控えますって言ったら
“起きないようにするのは違う”って…。
すっごく衝撃だった」
普通だったら、撮られないような行動を取ってねと言われて当然だと思うから。
永遠「うん。あの人は“素”で、天然記念物な存在だからね。
ジェットコースターに両手上げて爆笑して最速でゴールまで行く人(笑)
普通の人はそんな風に生きれないし、
起きる紆余曲折に1個1個悩んで遠回りする。
だから美月ちゃんの気持ちは、いたって正常」
カフェオレのおかわりをコポコポと注ぐ音にキンピラは耳だけ反応して丸くなっている。
永遠「けど…、もうそんな風に悩むのは、
辞めていい頃なのかもね」
永遠くんは「ありがとう」と言って、私が差し出したカップを受け取った。
時計の秒針がカチカチ音を立てて、キンピラの寝息が聞こえる静かなこの空間は、まるで時間の間に居るような感覚だ。
永遠「…でさ、
俺がここに来たもう一つの理由なんだけどさ、」
私の瞳を真っ直ぐに見て永遠君は言った。
少し茶色の透き通った瞳をしてるんだって、 見つめながらぼんやりとそう思った。
永遠「美月ちゃん…、俺に言わないけど
SNSに色んな変なメッセージ来てるでしょ?」
この人はどうしてこんなに鋭いのかなって、話す度に思う。
美月「…うん。来てるよ」
永遠「その中には、悪質なやつも来てるだろ」
美月「…うん、 はい。 そうね」
永遠「マジか…、やっぱな。
絶対そうだと思ってた」
ため息をつきながら永遠君は頭を抱えた。
美月「けど…けどね、
私は見ないようにしてるから大丈夫!
…っていうのは、前に、旬くんとの事で色々言われて、外に出られなくなってしまっまた経験をしたから、関わらないのが1番いい方法って知ったの」
永遠「……、それ、見せて、」
美月「えっ、」
永遠君は時々怖い目をする。
冷たく…突き刺すような視線。
美月「見る必要ないよ。見たら心に浸透して良くな…」
永遠「パソコン?携帯?いいから見せて。
無かった事にする方が心に浸透する。見せて」
私はパソコンを立ち上げてインスタを見せた。
私の個人的なインスタではなく、旬くんが生前撮り溜めていた、空の画像を私が投稿している物だった。私のアカウントでは有るけど自分を明かしていない。
そんなインスタなのに、私だと気がついてanswerとの関係を面白く思わない内容のメッセージだったり、イタズラ的な内容のDMが来ていた。
永遠君は一通ずつ黙ってそれに目を通して行った。
透明に澄んだ瞳にどんどんメッセージが流れて行く。
カチッ…
永遠「うん。全部読んだ。応援してくれてるのや、ファンですとかってのも有ったね」
美月「そうなの。
だから気にしてないよ。だいじょ…」
永遠「大丈夫では無いよね?」
言葉に被せるようにそう言って、振り向いた。
永遠「見ないふりすると、
どんどん薄皮みたいに重なっていつか大きくなる。
大きくなったら消えない痛みになる。
だから“共有”して」
美月「共有?」
永遠「うん。誰かに知っててもらうだけで軽くなるから。たまに見せてもらいたい。
見た物に対して、俺はノーコメント。
怒ったりもしない。
ただ知って共有したらそれで終わり。いい?」
美月「うん…、分かった」
何故か分からないけど涙が出てきた。
笑顔なのに涙がじわじわと出る自分が本当に謎だった。まるで天気雨みたいな涙だった。
嫌な気持ちを自分が半分持つよとは言わない。
助けるよとも言わない。
夜の道筋を後ろからそっと照らしてくれるような優しさが暖かくて、まるで毛布みたいに気持ちを包んでくれた。
永遠「ま、泣きたいくらい落ちたら
“永遠の法則”の出番だから、
いつでも言って」
タッチーさんから演奏のお礼に頂いたルームフレグランスの香りが胸いっぱいに広がる。
切ない程の幸せに心が震えた。