page 61 Story of 凪 9/2
言葉にならない一体感と解放感。
音と歌の中に宿る生命の源の中に漂う至福感と、
懐かしい程の静寂。
その歓喜のうねりが終わった時、
合った彼女の瞳から頬に涙が伝った。
凪「美月ちゃん?」
同じように言葉にならないのか、
美月ちゃんは黙って泣き続けた。
美月「…嬉し…、」
震えながら放つ声がまるで別人の声に聞こえる。
そんな風に思った瞬間を合図に俺の頭の中が“別人格”に切り替わる感覚がやって来た。
凪「 解き放て!、
想いをもっと さらけ出せ!」
勝手に口が言葉を話し出す。
それを傍観してる俺の意識は片隅に存在してる。
同時に、不思議と煙るような瑞々しい花の匂いが辺りに立ち込め始めた。
・
凪 「 そのままでいい! あらがうな 」
美月「 え、 」
・
別人格の意識の俺は、美月ちゃんの側まで歩いて行って、涙を拭うように顔を覆ってる彼女の左の手首を掴んだ。
・
ガチャ…
永遠「何が有った!、どうした!」
・
血相を変えた永遠が美月ちゃんに駆け寄る。
永遠は、彼女を守るようにして、美月ちゃんと俺の間に入る。
掴んでた彼女の手首を、永遠が離そうとした時、俺の中に入ってた意識は瞬間的に消えて無くなり、それと同時に身体の感覚が戻り、脱力と共に椅子に倒れた。
永遠「 大丈夫?何が有った!、」
永遠はそう言って、責めるような視線を俺に向けながら、自分の腕の中に彼女を抱いた。
凪「大丈夫だよ…、永遠、美月ちゃんは嬉しくて泣いてるだけだから」
ああ…
どうやら自分の思うように口は動くようになったらしい。
俺は背もたれに背中を預けた状態で、自分の手が動くか両手をまじまじと観察したまま、永遠にそう伝えた。
美月「永遠くん、ものすごく…誤解…」
永遠の腕の中で、落ちつきを取り戻した美月ちゃんは、少しずつ話し出した。
美月「私…、今までソロで活動して来て、それが普通と思って生きてきたけど…
こんな…、誰かと音楽を合わせるのって物凄く嬉しい事なんだって…
今まで感じた事がない至福感に、涙が勝手に出てきちゃっただけだから…」
美月ちゃんは心配しなくても大丈夫というように両手で永遠の胸を押した。
凪「そうなんだよ。永遠、何も心配無いから大丈夫」
俺は自由に動く身体に安心して、息を吐いた。
側に置いてたペットボトルの蓋を開けて口を付ける。
凪「美月ちゃん、ちょっとだけ伝えたい事が有るから少し聞いてもらっていい?あ、勿論、永遠もね」